後悔しても、戻らないあの時間。
止まっていた私の気力が、この後悔で動き出した。
 隠すように閉まっていた制服。ベッドから起き上がり、無造作に置いた通学カバンに数冊のノートと適当な教科書を詰め込む。

 学校に行こう。

 私は弱くて、色々な事が未熟なのだ。だから今より少しでも這い上がらなきゃいけないんだ。
 逃げてきた、今まで逃げてきたの。そしてとうとう大切な友達からも逃げてしまった。
 このままじゃいけないとようやく目が醒めた気がして、今までの自分にサヨナラすると心に決める。
 きっとまた、学校に行っても傷つくだろう。
 だけど、かとま君みたいに大好きな物を大好きと胸を張って言える人になりたい。

 私は、漫画を書くことが大好きだ。

 いつか声を大にして叫んでやるんだ。

 久しぶりに制服の袖を通し、重たいカバンを持って学校に向かう。
 変わらない通学路、登校する度に今日は何を言われるのか、どんな虐めをしてくるのか怯えていた記憶が甦るが、いつまでも止まっているわけにもいかない。
 きっと泣くし、また嫌になるし、消えてしまいたくなる時が来ると思うけど、かとま君を傷つけてしまった今の自分を変えたい。
 歩いて15分程、久しぶりの学校に着いて、校舎の外観についてある時計を見たら四時間目が始まっている時間帯。
 外のグラウンドでは、用務員のおじさんが除雪機に乗って積もった雪を片していた。
 校舎の敷地内に入ると、体育館から聞こえる何処かのクラスの笑い声が、外まで聞こえている。

 玄関にたどり着き、変わっていない下駄箱の匂いを数週間ぶりに嗅いでは、どんどん記憶がフラッシュバックして教室に近づく度に緊張が走る。
 学年事に階が違い、久しぶりに上がる階段の足が重い。
 踊り場を過ぎて、多目的ホールを横目に廊下を歩いていくと、4クラスある内の一つ、自分の教室が目に入り大きな深呼吸をして教室のドアを開ける。

 ガラガラ……

 四時間目はどうやら英語の授業で、担任ではない先生が黒板に立っていた。ほぼ全員私の姿を見て注目される。
 ざわつくクラスメイト。こちらを見ながらヒソヒソと話す女子達に、一瞬見たけど私の事なんて最初から居なかったように気にしない男子達。

 そして……私を虐めていた女子達のグループが、クスクスと笑いながらこちらを見ているのが見えた。
 変わらない顔、変わるわけないか……。
 私だって見た目は不登校前から何も変わっていない。英語の先生は「今来たのか?随分遅かったな。はい、授業戻るぞ~」と、無難な対応をしてくれてそのまま席に座る。
 机の引き出しには大量のプリント。

 何日分だろう。全部ゴミかな……。
 そんな事を思いながら久しぶりの授業を、悪口の書かれた教科書を開いてぼんやりと聞いていた。