大体いつもと同じ時間。
 太陽が東にある午前中、学校の登校時間はとっくに過ぎて、お店が開店するちょっと前の時間帯は通行人も一瞬だけ途切れる静寂の時間。
 正直かとま君が何時からそこにいるのかは知らないし、毎日いるのかも聞いていない。
 彼の中でルールは無いのだろう。だけど何だか昨日の出来事から少しだけ、自分の中で何かが変化した気がするんだ。
 それもこれも、かとま君のお陰なんだ。
 もっと仲良くなりたいし、かとま君のお母さんと同様、私も理解者の一人になりたい。
 公園が見えると人影が見えて、足が自然と早くなる。

「かとま君!」

 ベンチに座っている彼がいて、会えて良かった嬉しさで気持ちが高ぶり、つい大きな声で名前を呼ぶ。
 彼のいつもの姿。
 ベンチに座って空を見上げ、太ももの上には犬のワンちゃん。
やっぱり色白の頬っぺたはもうピンク色で、指先も真っ赤になっていた。

「ななこちゃん、おはよう」

 変わらない笑顔、変わらない穏やかな声。一つ年上なのに、私よりも幼い顔立ち。
 そしていつだって私を迎え入れてくれる優しい彼。
 ベンチの隣に座って話しかける。

「おはよう!今日も寒いね。」
「僕、寒いの大好きだよ。でも暑いのも大好き」

鼻歌を歌いながらまた「大好き」な物を教えてくれる彼の優しい雰囲気に、何だか癒される。

「かとま君、学校は?」
「何だかななこちゃんが来るような気がしたから」
「そっか。……ふふ。そっか」

 雲一つ無いスカイブルーの空。
 二人で空を見たり、行き交う車の音を聞いたり心地好い時間が流れる。
 そして、あまりにも気持ちが開放的になりすぎて、つい思っていた本音を伝えてしまう。

 それは私の中で何の悪気もない、むしろ尊敬していたかとま君への気持ち。

 貴方のようになりたかった、貴方のように強く生きてみたかった。憧れでもあり、羨ましくもある私の気持ちだった。


「かとま君てさ、強いよね。周りに馬鹿にされても何も気にしないでしょ?いいなぁ、そんなメンタルで毎日過ごせて」


 話した後にかとま君の顔を見て時が止まる。
 さっきまでニコニコと笑顔で飛行機を探していたかとま君の表情は、優しい顔から一変、無表情なのに瞳の奥から感じ取れる物悲しい心情。





「どうして僕が傷つかないと決めつけるの?」
「……え」



どうして……傷つかないと…。
待って私いま、凄い失礼な事を…。

「ご、ごめんなさい……っ!」

 思わず立ち上がり、かとま君の顔を見ないでその場から逃げてしまう。
 私はなんて事を言ってしまったんだろう。
 あんな言葉を言わせてしまって、あんな顔をさせてしまって、周りに何を言われても何も気にしないと勝手に決めつけて。

 ごめんなさい。

 ごめんなさい。

 かとま君、本当にごめんなさい。