飲めます、むしろ大好きですと答えると、可愛い犬の絵が描かれているマグカップから、ユラユラと湯気が出ているココアをテーブルに置いてくれる。
「どうぞ?熱いからフーフーしてね」
「あっつ!」
「今言ったばっかりでしょ、もう……本当にかとまは」
呆れているかとま君のお母さんに、「……いただきます」と声を出して一口飲む。
──美味しい。
牛乳が沢山入っている味がする。甘くて、優しくて、身も心も暖まっていく感覚。
「ななこちゃん、さっきどうしたの?流石にこんな冬に上着も着ないで外に出るのは危ないわよ?」
「……」
答えにくい質問に、カップを持つ手が口元で止まってしまう。
フーっと息を吹き掛けると、眼鏡がまた一瞬曇ってぼんやりと視界が遮る。
「僕ちょっとトイレ。何かお腹グルグルするかも……」
お腹を押さえてトイレに走って行くかとま君を見て、私なんかに上着を着せたから、お腹が冷えたんじゃないかと心配してしまう。
「……すいません。私のせいで」
「え?何が?かとまのトイレ?違う違う、さっき出掛ける前にアイス二つ食べたからよ。お腹弱いくせに、自業自得だから気にしないで」
「……すいません」
「謝らないで、逆にかとまがななこちゃんに失礼な事を言っていないか心配よ。あの子、ちょっと変わってるでしょ?さっきだって、夜に飛んでる光る飛行機見たいからって、寒空の下付き合わされたのよ」
「……」
そうですね、何て言っていいものか。確かに変わっている。むしろ初めて出会った時なんて、少し頭がおかしい人だと思っていたのは口が裂けても言えない。
だけど、変わっているからこそ、彼のようになりたいと思ったのも事実だ。
「あの子、小さい頃からあんな感じでね。心配で何回か検査を受けた事もあるの。生まれつきな特性もあると思うけど、価値観は人と少し違うみたいし……。でもまぁ親バカになるけど素直な子よ」
「わかり……ます」
「あの絵、見て。私と主人の顔なんだけどどれもこれも笑ってないでしょ?私、かとまの前で笑ってなかったのかなって不安になったこともあるんだけど、かとまがあんな感じだから私在宅勤務してるんだけど、パソコンに向かってる真剣な私の顔が大好きなんですって。……フフ。じゃあいいっかって主人と笑ったわ」
飾られているかとま君の絵は、お世辞にも上手とは言えないものばかりだった。
世間一般的には家族の顔は笑っているのが普通で、今日話していた風景画の空の色は、茶色や緑。
言い方を変えれば、色とりどり世界観で彼の色彩は面白かった。
「歌も下手、絵を書かせたら独特の色使い。字を読むのも書くのも苦手。だけど……」
かとま君のお母さんが優しく微笑む。