「どうして僕が傷つかないと決めつけるの?」
ハッと意識が現実の世界に戻る。
この台詞と共に浮かび上がる彼の無表情。だけど何処か寂しそうな色素が薄い茶色の瞳の奥。
何度も思い出す。
太陽がまだ頂上にいかない午前の時間帯。暖かい季節だと家族連れが賑わう、大きな公園のベンチに座って足だけを動かす彼の姿。
朝起きても、昼間学校にいても、寝る前の夜も、何度も何度も思い出す。
「……」
あの時間に戻れたら……。
あの時間に戻ってあんな言葉を言わなければ……。
過去には戻れない。ごめんなさいと謝っても届かない。
漫画の世界では、紙とペンであの時間を修復出来るのに。
ただ君に、憧れただけだったのに。
ただ君みたいに強くなりたかっただけなのに。
小柄な身体、太陽に照らし出されて少しだけ赤茶に見える髪の毛。
白い肌に、お父さん譲りと言っていた二重でクリッとした目。
太ももの上に乗せている、身体が長く、茶色で黒い瞳の色をした犬のお人形。
かとま君。
ねぇかとま君、犬のお人形のお友達を連れて今日は何処を歩いてるのかな。
変わらず君は、空を見上げて飛行機を探しているのかな?
臆病な私でごめんなさい。君にあんな言葉を言わせてごめんなさい。
会いに行く勇気が無くてごめんなさい。