あれから私はもちろん病室から抜け出していたことに気づかれていて、とても怒られた。そのせいで今では怪我の治療と一緒にカウンセリングを受けることになってしまった。
それから何回か検査をし、問題がなかったため二週間程で退院できた。腕がまだ完治していないから不便だけど、日常生活に問題はなかった。
私は台所でフライパンを振るうお母さんに近づいた。
「お母さん、お願いがあるんだけど」
「うーん、どうしたの?」
私の話を聞こうとお母さんは持っていたフライパンをコンロにいて火を切った。
「...私、大学に行きたい」
私は自分の気持ちを伝えようと真剣にお母さんの目を見つめる。
最近まではなりたいものもなくて、私はこのまま適当なところに就職して生活さえできればいいと思っていた。でも初めてなりたいものができた。大学には受験するだけでもお金がかかるし、受験したとして受かる保証もどこにもない。家にそんな余裕がないこともわかっていた。でもどうしても諦めることができない。
「お金はバイトして全部返すから」
「行きたいのなら行きなさい」
私が最後まで言い終わる前にお母さんが強く言った。私は驚いた顔を上げる。
「お金なんてどうにでもなるわ。美月のしたいことをしていいのよ。だから諦めるようなことはしないで」
真剣に話していたお母さんは「夜食も作ってあげる」と優しく微笑んだ。いまだにお母さんとは気まづくなることもあった。でも母なりにもう一度、歩み寄ってくれているのを感じていた。みんな前を向いている。
「ありがとう。夜食はおにぎりがいいかな」
そう言って私は笑いながら夜ご飯の準備を手伝った。
❋
温かい今日この頃、寒かった冬も終わり、別れと出会いの季節。
辺りは木に囲まれ段々状になった墓苑は、先まで整然と墓石が立ち並んでいる。だが、人影はなかった。見晴らしのいい高みまで上ったところで、一つの墓石の前で足を止める。
蒼空が亡くなってから四十九日がたった。今私は初めて蒼空のお墓参りに訪れていた。どうしても来れなかった。矢野家之墓と刻まれた黒御影石を前にして、私はやはり泣いてしまった。
蒼空のことを思い出すだけで涙が止まらなかった。どんなけ周りに許されようとどうしても私自身が私を許せなかった。こんな覚悟で来てはいけない。私は一度近くのベンチに座り込んだ。
木々の隙間から漏れる木漏れ日が暖かくてなんだか眠くなる。柔らかい風からはまだ先の春を感じさせた。穏やかな風にに包まれながら私は静かに目を閉じた。
「あーあ、こんなに目を腫らして」
どこか浮かないような声で誰かが私の涙を優しく拭う。
「空からずって見ててやるから。だからお前はこれから好きなように生きていいんだ」
その暖かいなにかが泣いている子供をあやすように優しく優しく頭を撫でた。
「俺はもう大丈夫だよ」
「蒼空?」
そこで目が覚めた。夢だった、というのがわかるまで、少し時間がかかった。 私は行き場なく伸ばした手を下ろす。
『俺はもう大丈夫だよ』
頭の中でそう笑う蒼空の姿が浮かんだ。顔は見えなかったけれど、あの優しい手は確かに蒼空だった。
蒼空が亡くなってから今日で四十九日がたった。亡くなった魂が四十九日の間に心残りをなくし、この世にいれる最大の日数。蒼空は私が心配だったのだろうか。だから私がここに来るまで待っていてくれたのかなと都合よくそう思った。
「......今日が最後」
私は再び蒼空のお墓に向かった。今にも出てきそうな涙をグッと堪えて、私は顔を上げる。
「私はこの先ずっと蒼空のことは忘れられない。だから全部背負って生きていこうと思う」
私は静かにでもはっきりとそう口にした。絶対に蒼空のことを忘れるなんてできない。でも忘れなくていいと思った。思い出すと泣きそうになるけれど、それ以上に蒼空との大切な思い出がたくさんあった。それに私が覚えてる限り蒼空の存在が消えることはないから。
もう死のうなんてしないよ。蒼空が命を張って教えてくれたこと。それは『生きる』
「私、医者になりたいって思ったんだ。蒼空みたいに苦しんでる子を救ってあげたい。蒼空が助けてくれたこの命には意味があったって証明したい」
私はここ数日に考えていたことを口にする。蒼空のは病気について調べているうちにまだ治療法のない難病がたくさんあることを知った。そんな病気によって、まだこれから生きていくはずだった小さな子供が苦しみ、命を落としている。そんな子を助けたいそう思った。必ずなってみせると蒼空の前で覚悟を決めた。
「まだお礼言ってなかったよね。蒼空、助けてくれてありがとう」
私は大きく息を吸った。まだ一番言わなきゃ行けないことを言っていない。
「だからもう私は大丈夫だよ」
私は曇りなく笑ってみせた。蒼空が心残りなく旅立てるように。すると優しく風が吹いた。なんだか蒼空が返事をしてくれたような気がする。蒼空はひまわりの花言葉を教えてくれたよね。私は手に持っていたひまわりとシオンの花をすでにある花に添えた。蒼空はシオンの花言葉を知っているかな。私は振り返るとゆっくりと歩き出した。
つらくなったときはこの空を見あげよう。
それから何回か検査をし、問題がなかったため二週間程で退院できた。腕がまだ完治していないから不便だけど、日常生活に問題はなかった。
私は台所でフライパンを振るうお母さんに近づいた。
「お母さん、お願いがあるんだけど」
「うーん、どうしたの?」
私の話を聞こうとお母さんは持っていたフライパンをコンロにいて火を切った。
「...私、大学に行きたい」
私は自分の気持ちを伝えようと真剣にお母さんの目を見つめる。
最近まではなりたいものもなくて、私はこのまま適当なところに就職して生活さえできればいいと思っていた。でも初めてなりたいものができた。大学には受験するだけでもお金がかかるし、受験したとして受かる保証もどこにもない。家にそんな余裕がないこともわかっていた。でもどうしても諦めることができない。
「お金はバイトして全部返すから」
「行きたいのなら行きなさい」
私が最後まで言い終わる前にお母さんが強く言った。私は驚いた顔を上げる。
「お金なんてどうにでもなるわ。美月のしたいことをしていいのよ。だから諦めるようなことはしないで」
真剣に話していたお母さんは「夜食も作ってあげる」と優しく微笑んだ。いまだにお母さんとは気まづくなることもあった。でも母なりにもう一度、歩み寄ってくれているのを感じていた。みんな前を向いている。
「ありがとう。夜食はおにぎりがいいかな」
そう言って私は笑いながら夜ご飯の準備を手伝った。
❋
温かい今日この頃、寒かった冬も終わり、別れと出会いの季節。
辺りは木に囲まれ段々状になった墓苑は、先まで整然と墓石が立ち並んでいる。だが、人影はなかった。見晴らしのいい高みまで上ったところで、一つの墓石の前で足を止める。
蒼空が亡くなってから四十九日がたった。今私は初めて蒼空のお墓参りに訪れていた。どうしても来れなかった。矢野家之墓と刻まれた黒御影石を前にして、私はやはり泣いてしまった。
蒼空のことを思い出すだけで涙が止まらなかった。どんなけ周りに許されようとどうしても私自身が私を許せなかった。こんな覚悟で来てはいけない。私は一度近くのベンチに座り込んだ。
木々の隙間から漏れる木漏れ日が暖かくてなんだか眠くなる。柔らかい風からはまだ先の春を感じさせた。穏やかな風にに包まれながら私は静かに目を閉じた。
「あーあ、こんなに目を腫らして」
どこか浮かないような声で誰かが私の涙を優しく拭う。
「空からずって見ててやるから。だからお前はこれから好きなように生きていいんだ」
その暖かいなにかが泣いている子供をあやすように優しく優しく頭を撫でた。
「俺はもう大丈夫だよ」
「蒼空?」
そこで目が覚めた。夢だった、というのがわかるまで、少し時間がかかった。 私は行き場なく伸ばした手を下ろす。
『俺はもう大丈夫だよ』
頭の中でそう笑う蒼空の姿が浮かんだ。顔は見えなかったけれど、あの優しい手は確かに蒼空だった。
蒼空が亡くなってから今日で四十九日がたった。亡くなった魂が四十九日の間に心残りをなくし、この世にいれる最大の日数。蒼空は私が心配だったのだろうか。だから私がここに来るまで待っていてくれたのかなと都合よくそう思った。
「......今日が最後」
私は再び蒼空のお墓に向かった。今にも出てきそうな涙をグッと堪えて、私は顔を上げる。
「私はこの先ずっと蒼空のことは忘れられない。だから全部背負って生きていこうと思う」
私は静かにでもはっきりとそう口にした。絶対に蒼空のことを忘れるなんてできない。でも忘れなくていいと思った。思い出すと泣きそうになるけれど、それ以上に蒼空との大切な思い出がたくさんあった。それに私が覚えてる限り蒼空の存在が消えることはないから。
もう死のうなんてしないよ。蒼空が命を張って教えてくれたこと。それは『生きる』
「私、医者になりたいって思ったんだ。蒼空みたいに苦しんでる子を救ってあげたい。蒼空が助けてくれたこの命には意味があったって証明したい」
私はここ数日に考えていたことを口にする。蒼空のは病気について調べているうちにまだ治療法のない難病がたくさんあることを知った。そんな病気によって、まだこれから生きていくはずだった小さな子供が苦しみ、命を落としている。そんな子を助けたいそう思った。必ずなってみせると蒼空の前で覚悟を決めた。
「まだお礼言ってなかったよね。蒼空、助けてくれてありがとう」
私は大きく息を吸った。まだ一番言わなきゃ行けないことを言っていない。
「だからもう私は大丈夫だよ」
私は曇りなく笑ってみせた。蒼空が心残りなく旅立てるように。すると優しく風が吹いた。なんだか蒼空が返事をしてくれたような気がする。蒼空はひまわりの花言葉を教えてくれたよね。私は手に持っていたひまわりとシオンの花をすでにある花に添えた。蒼空はシオンの花言葉を知っているかな。私は振り返るとゆっくりと歩き出した。
つらくなったときはこの空を見あげよう。