明け方、電話が鳴った。病院からだ。

 僕は閉じかけていた目をかっと開いて、天文台を飛び出し、車に乗り込んだ。

 明るみ始めた町を飛ばして病院へ向った。

 エレベーターを待つのがもどかしくて階段を駆け上がる。
 看護師さんに案内されて分娩室に入った。

「柚葉!」

 柚葉の元に駆け寄って手を握る。

 柚葉のお腹にかけられたシーツが赤く染まっていた。
 大丈夫なんだろうかと心配になるほど血が出ている。

「恒くん……」

 柚葉が僕を見上げて、笑みを浮かべた。

「もう少し……もう少しで、会えるよ」

「うん」

 僕はうなずいた。

「笹ヶ瀬さん、力入れて!」

 助産師さんが大声で叫んだ。
 みんな汗だくだった。
 汗を流しながら、血を流しながら、頑張っている。

 命が産まれるとき、こんなにもたくさんの人の手で、必死に押し出されて、この世界に出てくるんだ。

 お腹の中にいるこの子も必死に外に出て来ようとしている。

 僕は柚葉の手を握って声をかけ続けた。

 頑張れ、頑張れ、頑張れ……!