柚葉のお腹は徐々に膨らんでいった。
 つわりで毎日のように食べては吐いていたのもだんだんと落ち着いてきて、いまではバスケットボールくらいの大きさになっている。

 あと一ヶ月。
 あと一ヶ月で、この子に会えるんだ。

 哺乳瓶やベビー服を買い、着々と準備をすすめながら、僕はずっとそわそわとしていて、もう星どころじゃなかった。

 臨月に入ってからは週に一度健診がある。
 僕は健診の日は仕事を休みにして、付き添うことにしていた。

 病院に着いてロビーを歩いていると、聞き覚えのある声がした。

「柚葉!」
「お兄ちゃん」
 柚葉のお兄さん、藤吾さんだ。

 藤吾さんはこの病院で内科医をしているのだが、病院に来ると必ずといっていいほど会う。
 柚葉の居場所をつねに把握しているんじゃないかと僕はひそかに思っている。

「どうだ、産まれそうか」
「うーん。まだっぽい」
「そうか、何かあったらすぐに言えよ。いつでも電話とれるようにしとくから」
「わかったわかった」
 柚葉は笑いながら手を振った。

「お兄さん、相変わらずだなあ」
「シスコンに磨きがかかってるね」
 ははは、と僕は苦笑いを浮かべた。

 産婦人科の診察室に入る。
 横になった柚葉の丸いお腹に、医者がエコーを当てた。

 最初は小さな点ほどしか見えなかった姿が、いまではくっきりと顔の形まで見ることができる。

 手足を丸め、体を抱くようにして眠っている。
 赤ちゃんの眠りは昼夜逆転していて、昼眠り、夜に活動的になることが多いそうだ。

「元気に動いてますね。心臓の動きも正常です」
 医者が言って、僕はほっと息を吐いた。

 柚葉もエコーを見ながら、同じようにほっとした表情を浮かべていた。