六年前、奇跡が起こった。
治療不可能と言われていた柚葉の病気『慢性頻拍性』の治療薬が開発されたのだ。
新しい薬で、まだ効果もよくわからなかったけど、待っている時間はなかった。
薬を飲み始めて数ヶ月が経った頃、効果があらわれた。
普通の人の何倍もの速さで動き続けていた柚葉の心臓は、薬によって、少しずつゆるやかに落ち着いていったのだった。
奇跡としか言いようがなかった。
ーーずっと一緒にいられますように。
あのとき願ったことが、いまも続いている奇跡。
心の広い海の神様が願いを叶えてくれたのかもしれない。
柚葉の願いが、柚葉のお父さん、お母さん、お兄さん、柚葉を知る人たちの願いが、届いたのかもしれない。
生きてほしい。
みんなが、そう強く願っていたから。
高校を卒業して、僕らは大学に進学した。
僕は天文学を学び、柚葉は教員の資格をとった。
大学を無事卒業し、僕は父さんが所長を務める天文台で働き、柚葉はフリースクールの教師をしている。
『病気じゃなくても、学校に通えない子がたくさんいる。そういう子たちに言ってあげたいの。一人じゃないよって。少しでも多くの子が前を向けるように。踏み出す勇気を持てるように』
柚葉は、そう言った。
いまでは持ち前の明るさもあって、たくさんの生徒たちに慕われている。
そして、もう一つ、奇跡が起こった。
柚葉のお腹の中に、新しい命が宿ったのだ。