机の上の小さなランプ以外何も明かりがない暗い室内で、ファインダーの監視を続ける。

 いままでくっきりと見えていた星の像がだんだんと薄くなってきて、夜が明けたことを知る。
 六時を過ぎた頃、僕は分光器のシャッターを閉め、暗い観測室を出た。

 高い天窓を見上げると、空はすっかり白んでいて、星はどこにも見えない。

 今日は風がなく空は鮮明に輝いていて、次々と星を追うことができた。
 長時間の集中から抜けると、一気にぐったりとした疲れと眠気がやってくる。

 階段を下りていくと、父さんがソファでいびきをかきながら眠っていた。
 ここではつねに、父の趣味であるクラシック音楽が控えめな音量で流れている。
 町の片隅にある古い喫茶店みたいだ。

「父さん、僕はそろそろ帰るよ」

 声をかけると、父さんは薄く目を開けて
「んん? ああ……」
 と眠たそうにごにょごにょと返事をした。

 三年前にばあちゃんがいなくなってから、父さんは前にも増して家に帰る頻度が減り、ますます天文台に住み着く主のようになっている。

 ばあちゃんは病気もなく八十歳まで元気に生きて、家の布団の中で息を引き取った。
 夜、おやすみ、と言ってそのまま、ふたたび目を開けることはなかった。

 僕は高校を卒業して大学で天文学を学び、いまはこの天文台で父さんの下で働いている。
 職員は僕を入れて四人。たびたび遠くから研究チームが山を上ってやってくる。

 働き始めて二年目の僕は、ここではいちばん下っ端の助手だ。まだまだ覚えることだらけの半人前。

 はじめはうちは写真の現像や書類作成などの雑用が多かったけれど、最近になって星の観測もさせてもらえるようになり、毎晩夢中で星を追う日々だ。

 星には興味がなかったはずなのに、父さんと同じ道を選んだのは、やっぱり星好きの遺伝子を受け継いでいたからだろう。

 でも、僕はどんなに忙しくても疲れていても、毎日家に帰ることにしている。

 僕の帰りを待っている人がいるから。