高梁さんが目を見開く。
 大きな目で、僕をじっと見つめる。

「……いいの? 私で」

 小さな声で、自信なさそうに、高梁さんが言う。

「もうすぐいなくなっちゃうのに?」

 僕はうなずく。
 高梁さんがいいんだ。
 ほかの誰かじゃダメなんだ。

「恋なんて、諦めてた。ただの友達でいいって。友達がいいって」


 それならずっと、友達のままでいられるから。
 いなくなってからもずっと。


「でも、私でいいなら……一緒にいてください」


 高梁さんは涙を浮かべながら、笑って言った。



 それから、社務所でお守りを買った。
 花のようにレースが編み込まれた可愛らしいお守りだった。

「この神社ね、縁結びの神様もいるんだって」
 高梁さんがささやくようにそう言った。

「へえ……」
 じゃあ、僕のお願いは、縁結びの神様にさっそく叶えてもらったということだ。

「そういえば、高梁さんは何をお願いしたの?」

 ふと思い出して、尋ねてみた。

「私のお願いはね……内緒」

「ええっ」
「願い事は言うと叶わなくなっちゃうんだよー」
「聞いといて、それはずるいよ」

 えへへー、と高梁さんが笑って、手を差し出す。
 僕はその手をとった。

 温かかった。透けてもいなかった。

 僕らは、ここにいた。

 手の感触をたしかめながら、歩きたいと思った。

 砂利の道に、僕らの影と、二つのお守りが揺れていた。