「神社に行きたいな」
と高梁さんが言った。
今日はジーンズストリートに行く予定だった。
ジーンズストリートとは、三十店以上のジーンズ専門店が並ぶ商店街のことだ。
といっても目当てはジーンズではなく、そこで売っている青いソフトクリームだった。
「神社……って何しに?」
「笹ヶ瀬くん、神社は初詣のときに行く場所だと思ってるでしょ」
「思ってました」
「その神社にはね、海の守り神がいるんだよ。交通安全、美容健康、商売繁盛」
高梁さんがリズミカルな口調で言った。
海の守り神。
その心の広そうな神様なら、ちょっと無理なお願いをしても聞いてくれるだろうか。
というわけで、予定を変更して神社に向った。
倉敷市の中心地、美観地区一角に、その神社はあった。町を見下ろすようにして、どっしりと建っていた。
こんなに近くにあるのに、行くのは初めてだった。
初詣は近所の小さな神社にお参りに行くだけだし、神社にはあまり縁がなかったのだ。
鳥居をくぐってすぐ、急な階段が待ち構えていた。
「大丈夫?」
僕は心配になって尋ねた。
「うん。今日は体調いいんだ」
高梁さんがピースをして言う。
背の高い木がひんやりと木陰をつくる石段を、一段一段、ゆっくりと上った。
あまり人はいなかった。僕らと同じスピードで階段を下りてくるお年寄り夫婦とすれ違った。
おはようございます、と言うと、お年寄り夫婦はそっくりな穏やかな顔で、おはようございます、と言った。