たったいま高梁さんのことを考えていたから、もしかしたら幻覚かもしれないと思ったけれど、高梁さんはたしかに僕の目の前に立っていた。

 半透明な後ろ姿の向こうに線路が見えた。
 学校の近くにある、小さな無人駅だ。
 古びた白い壁に黒い三角屋根。改札は一つだけ。周りには駐車場と駐輪場があり、持ち主を見失ったような自転車がまばらに置かれている。

 ―ーカンカンカン。

 晴れた空に踏切の音が鳴り響き、ゆっくりと遮断機が下りてくる。
 そのときだった。
 高梁さんが、踏切に向かって行進するように、足を踏み出した。

 ―ーえ?

 僕は唖然としてその背中を目で追った。

「な……っ」

 ―ー何を、してるんだ?

 高梁さんは、線路の真ん中に立っていた。

 ―ーカンカンカンカンカン。カンカンカンカン。

 警報音が大きくなる。
 考えている暇はなかった。

「高梁さん!」

 僕は走って線路に飛び込み、高梁さんの腕をつかんだ。
 ものすごく近くで警報音が鳴った。

 二人して地面に転がった。
 轟音とともに目の前を電車が通りすぎていった。

 何が起こったのかよくわからなかった。
 ただ、全身の血がすごい速さで駆け巡るように、胸がどくどくと鳴っていた。