「笹ヶ瀬くんっ!」

 待ち合わせ場所にやってきた高梁さんは、僕を見つけるなりがしっと腕を掴んだ。

 この間会ったときは真っ白だった顔色が、少し紅潮していた。

「連絡がきたの、七菜から」

 声が震えていた。

「七菜って……」
「うん。私の、友達。ひどいこと言ってごめんって……ほんとはもっと話したかったって、言ってくれたんだ」

 時間はかかっても、真剣な思いは、心からの言葉は、届くのだと思った。

 一人だった僕に、高梁さんが真剣に伝えてくれたみたいに。

 吉井さんはフリースクールに通い始めて、新しい友達ができたという。

 僕らはきっと、すごく狭い場所にいたんだと思う。

 教室の中で、一人孤立して、誰にも助けを求められなかった。
 思っていることを口にだす声もなくしたような気がしていた。

 でも、そんなことはなかったんだ。

 教室から、あの狭い場所から一歩でも外に出れば、僕らは透明人間なんかじゃなかった。

 いくらでも声を出していいし、無視されることなんて、なかったんだ。

 僕の隣に高梁さんがいてくれたことは、幸運だった。
 だけど、そうじゃない人もいる。
 たった一人で、戦えなかった人もいる。

 学校だけがすべてじゃない。受け入れてくれる場所はどこかにある。
 そういう場所を吉井さんが見つけられてよかった。心からそう思った。


「病気のこと、七菜に言ったの。言わないつもりだったけど、大切な友達に、もう隠し事したくなかったから」

「うん」
 僕はうなずいた。

「二つ目の願い、叶ったよ」
 高梁さんは嬉しそうに笑って言った。