売店を出て、貝殻を拾いながら砂浜を歩いた。
 少し日が落ちてきて海の照り返しもなくなり、優しい色合いになっていく。

「あっ、ピンク色の貝殻。きれー」
 高梁さんが小さなさくら貝を拾って嬉しそうに言った。
 巻き貝も、つるつるした真珠みたいな貝殻もあった。
 両手いっぱいの貝殻を、高梁さんは焼きそばが入っていたビニール袋に入れた。

 だんだん人が少なくなってきて、踏まれていないきれいな形の貝殻がたくさん落ちている。
 気づけば遊泳禁止のところまで来ていた。

「ちょっとだけ入ってみようかな」
 高梁さんが言って、波打ち際まで歩いていく。

 危ないよ、と止めても足を止めなかった。
 サンダルを脱いで、白い足を海につける。

「気持ちいい」
 と高梁さんは言って、足を踏み出す。
 後ろ姿はもうどこも透けていなかった。
 それでも、散り散りになった太陽の光にそのまま飲み込まれてしまいそうだった。

「高梁さんっ」
 怖くなって、僕はその細い手を掴んだ。

 高梁さんが足を止めて、振り向いた。
 ほっとしたのもつかの間、ぐい、と手を引かれた。
 高梁さんの胸が、すぐそばにあった。

「えっ……高梁さん……?」

「聞いて」

 高梁さんの胸に、僕の顔がぴたりとくっつく。

 柔らかい感触。
 僕は変な態勢のまま動けなかった。

「私の心臓の音。笹ヶ瀬くんにはどう聞こえる?」

「……よく、わからない」

僕の心臓もいま、きっと同じくらい速く動いている。

 トトトトト、と駆けるように、どっちのかわからない速い鼓動が耳元で聞こえた。

「わからなくてもいいから、覚えてて。私がここにいること」

「……うん」

 ざざ、と寄せる波の音。高梁さんの心臓の音。そして、僕の心臓の音。

高梁さんはもう透けていなかった。夏休みに入ってから見違えるくらい明るくなって、吹っ切れたように感じていた。

でも、震えてる。

怖いんだ。

いまも、ずっと、怖いのを堪えてたんだ。

「うん」

僕は高梁さんの背中に手を伸ばした。細いな、と思った。

「覚えてるよ。ずっと」
そう言って、抱きしめた。