美術館にも行った。花火にも行った。プラネタリウムにも、町でいちばん大きな図書館にも行った。
楽しい時間は映画を早送りで観るように過ぎていった。
でも、そうじゃないときもあった。
ときどき、高梁さんが外に出られないときがあった。
『ごめん。今日は行けなさそう』
そういうとき僕は、最初の予定通り漫画を読んだり映画を観たりかき氷を食べたりした。
高梁さんに会えない日は、何十時間にも何百時間にも思えた。
言わないようにしていたけれど、気づいていた。
もうどこも透けていない高梁さんの肌が、たまにはっとするほど白く見えることに。
血管が浮き出て見えるほどの白さは、透明よりもっと残酷な現実を僕に突きつけてきた。
そんな予定のない月曜日の朝、珍しく電話が鳴った。
見ると、知らない番号だった。
「こんにちは。突然すみません。柚葉の兄の高梁藤吾といいます」
ギョッとして、携帯を落としそうになった。
高梁さんのお兄さん?
「そちらは笹ヶ瀬恒くんですよね」
「は、はい、そうです」
ヒヤリとした。
高梁さんのお兄さんが電話をかけてくるなんてーーもしかして、高梁さんに何かあったんじゃ。
不安になって言葉を待っていると
「君に会って話したいことがあるんだ」
と高梁さんのお兄さんは言った。