「体が透けて見えても心までは透けて見えない。でも、言葉なら伝えられる。だから、聞いてみたいと思ったんだ。笹ヶ瀬くんの心を、笹ヶ瀬くんの言葉で」
ーー僕の、言葉。
「僕は……高梁さんがいてくれたから、一人じゃなかった。一人だったら、学校に行けなくなってたかもしれない」
だからーー
「ありがとう」
僕は言った。
高梁さんは、うん、と言った。
「いまは……いまはどう見える?」
僕は緊張しながら尋ねた。
「もう透けてないよ。ちゃんと、はっきり見えるよ」
高梁さんは目に涙を浮かべながらそう言った。
「終業式の日、笹ヶ瀬くんは、もう透明じゃなかった。あのとき、よかったって思った。もう大丈夫だって」
初めて見る高梁さんの涙。
意外と笑いのツボが浅くて、熱血で、そして、涙もろい。
でも、いまはまったく人のことは言えなかった。
僕もぐしゃぐしゃに泣いていたから。
それから代るがわる、二人で星を見た。
「あれはかめ座だね」
高梁さんが言った。
「かめ座? そんな星座あったかな」
「わかんないけど、あれ、なんかかめの甲羅っぽくない?」
「言われてみればそんなような気もしなくもないような……じゃあ、あれはたまご座」
「笹ヶ瀬くんが好きなものじゃん」
高梁さんが笑った。
昔の人もこんな風に空を見上げて、適当に形を当てはめて星座を考えたのかもしれない。
みずがめ座。おおいぬ座にこいぬ座。女の人の長い髪や琴。知っている、身近なものや憧れのものにたとえて。
「あれは琥珀糖座」
「どれ?」
「星を四つ繋げたら四角になるでしょ」
「たしかに」
それならどんな星座も琥珀糖座になってしまう。
でも、夜空においしそうな星座を見つけるのは、なんだかいいなと思った。
夜空に浮かぶ星を繋げたらどんな形にも見えてくる。八十八個と言わず、いくつだってつくれる。
高梁さんは、もうどこも透けていない。
きっと、怖い気持ちがなくなったわけではないと思う。
でも、高梁さんの中で、何かが変わったのなら。
ここに連れてきてよかった。
一緒にこの景色を見ることができてよかった。
望遠鏡を覗く高梁さんの隣で、僕は、はっきりと自覚した。
高梁さんが好きだ。
生まれたばかりのこの気持ちを言葉にすることはできなかった。
でも、いまは、一緒に星を見ているだけでいいと思った。