「でもね、笹ヶ瀬くんを知っていくうちに、もしかしたら違うのかもしれないと思った。私は死にたいと思ってたとき、下ばかり向いてた。なんにも見ようとしないで、聞こうとしないで、自分の中にこもってた。でも、笹ヶ瀬くんは違った。おいしいものをおいしそうに食べて、きれいなものをきれいだと思える人だった。だから、思ったの。笹ヶ瀬くんは死ぬ人じゃないって」

 おいしいものをおいしいと言って、きれいなものをきれいだと言って。

 そうすることで、平常心を保つことに必死だった。

 でも、本当は、ギリギリだった。

 僕一人が声をあげたとしても、きっと簡単に潰されてしまう。

 だから、潰れないギリギリのところで保っていた。
 何も言わず、気配を消して、自分を押し殺して。

 でも、本当はずっと、言いたかった。


 “助けて”


 声にならない声で、そう叫んでいた。


「たとえそうならなかったとしても、私たちはお互い同じ気持ちだったからそう見えたんだと思う。消えてしまいたいって、ずっと思ってたから」

 消えたい。
 そうだ。僕はーー
 

 平気だと思っていた。
 誰にも話しかけられなくて、いない人間みたいに扱われて、それでも、平気なふりをしていた。

 でも、そんなのは強がりだった。
 人に拒否されたこと、孤立したこと、自分を受け入れてもらえない恐怖は僕の心をズタズタに傷つけた。
 声をあげる勇気も持てないくらいに。

 ーー消えたい。

 その気持ちは日に日に強くなっていった。

 この教室から、消えてしまいたい。
 本当に透明人間になって、誰の目にも映らなくなったら、無視されたって仕方ない。
 だって見えないんだから。
 だからいっそ、本当に消えてしまえたら楽なのに。
 そう願っていた。

 高梁さんも、同じ気持ちだったから。

 同じ気持ちが、僕らを引き合わせた。

 一人だった僕らに、一人じゃないって、教えてくれてくれてたんだ。