「無視が始まってちょっとした頃から、笹ヶ瀬くんが透けて見えるようになったの」
「僕が……?」
「なんでそんな風に見えるのかわからなかった。自分の目がおかしくなったんだと思った。心臓だけじゃなくて目まで変になっちゃったんじゃないかって……でも、透明なのは、笹ヶ瀬くんだけだった。ほかの人はちゃんと見えたの」
息を飲んだ。
僕には高梁さんが透けて見えた。
僕だけだと思っていた。
でも、高梁さんにも、僕のことが同じように透けて見えていたーー?
「なんでなのか、全然わからなかった。でもずっと気になってた。そしたら、笹ヶ瀬くんが言ったの。私のことが透けて見えるって」
『僕には、高梁さんが、透けてるように見える』
あの日、僕はそう言った。
そして、高梁さんは
『やっぱり私、もうすぐ死ぬんだ』
そう言ったのだった。
「焦ったよ。それなら笹ヶ瀬くんも、もうすぐ死んじゃうのかもしれないと思ったから。笹ヶ瀬くんが透けて見えるようになったのは無視が始まってからだったから……原因は、一つしか思いつかなかった。そんなの、絶対にだめだと思った。そうなる前に止めなきゃって」
だから、高梁さんは言ったんだ。
あんなにも強く。
一緒に戦おう、一人じゃないって。
必死になって止めようとしていたんだ。
僕が、自分から命を終えてしまうかもしれないと思ったから。