子供たちが、楽しそうにはしゃぎながら帰っていった。
片付けをして、職員さんたちに挨拶をして天文台を出た。
暗くなり始めた山道を下る。
「最近恒の元気がないって、ばあちゃんが言ってたぞ」
ハンドルを握る父さんが、前を向いたまま言う。
「ばあちゃんは全部お見通しだなあ」
家族っていうのは、星座みたいなものだと思う。
いびつでも、暗くて見えなくても、ちゃんと繋がっている。
どれだけ離れていても、いなくなってしまっても、途切れることはない。
「知ってるか。恒って名前は、じいちゃんがつけたんだ。恒星の恒だ。何があってもどっしり構えていればいい」
恒星は自ら光を発する。大きくて明るい存在。
地球から肉眼で見える唯一の恒星は、太陽だ。
父さんの言いたいことがなんとなくわかって、僕は照れくさくなって苦笑した。
「僕はそんなにすごくないよ」
「すごくならなくてもいいんだ。ただ自分をしっかり持っていれば、それでいい」
そう言われて、また逃げようとしていたことに気づく。
受け入れられないことがあると、すぐに目をそらしたくなるのは、僕の悪いクセだった。
でも、逃げてる場合じゃない、と思った。
車は山を下りて、オレンジ色に染まる街を走る。
「父さん。あの望遠鏡、貸してくれないかな」
僕が言うと、キキィーッ、とブレーキ音を鳴らして車が止まった。
後ろから来た車に思いきりクラクションを鳴らされてしまい、父さんは慌てて発進させた。
「貸してって、持ち運びできる小型望遠鏡とは違うんだぞ」
「見せたい人がいるんだ」
僕は食い下がった。
ダメだと言われても、何度でも頼み込むつもりだった。
飛べるかもしれない、と思った。
もちろん、本当に天文台から空を飛べるわけじゃない。
でも、あのときに見た景色を、感動を、どうしても見せたかった。
父さんは、うーんとうなった。
「まあ、ほんとはだめだけど、父さんだけのときなら……」
信号が青になって、ギュン、と父さんはアクセルを踏んだ。
「三日後だ。ほかの職員には内緒でな」
そう言った顔は、昔、内緒だぞと言いながら、真夜中に望遠鏡を見せてくれたときの笑顔と同じだった。