「観測所では毎日星の動きを観測し、記録しています。天文だけでなく、気象の記録もします。ここで観測したことは星の研究や、地震などの防災にも役立っているんですよ」
父さんがマイクを持って、集まった子供たちに説明をしているのを、僕は壁際に立って見ていた。
職員さんが、季節ごとの星の動きや形成、銀河団について、スクリーンを使ってわかりやすく説明する。
うみへび座銀河団で謎の放射線が見つかったという話は、気づけば僕も子供たちと一緒になって真剣に聞いていた。
銀河団というのは数百から数千個の銀河が集まってできた天体のことで、銀河同士が衝突を繰り返し、そこから膨大なエネルギーが生まれているという。
暗い星が集まったうみへび座のはるか向こうでは、そんな熱いぶつかり合いが起こっているのかもしれない。
それから順番に階段を上って、間近で望遠鏡を見学した。
「この大きな望遠鏡は、国内最大級の口径を持っていて、188センチあります」
観測室の真ん中に、巨大な空色の望遠鏡がそびえ立っている。
子供たちは巨大な望遠鏡を前に目を輝かせて望遠鏡を見上げている。
「この望遠鏡は三つの焦点を持っていて、いちばん大きなクーデ焦点、次に大きいのがカセグレン焦点、いちばん小さいのはニュートン焦点といいます。観測する目的によって、その都度観測機器の交換を行っています」
子供たちは、ふんふんとうなずきながら真剣に聞いている。
みんな、星が好きなんだろうな。
小学校の頃の自分と重なった。
僕も同じように、この巨大な望遠鏡を見上げていたのだ。
小学校のとき、普段は見ることはできても実際覗くことはできないこの望遠鏡を、父さんがこっそり見せてくれた。
真夜中に起きているだけでドキドキしたのに、レンズの向こう側にはもっと非日常の世界が広がっていた。
望遠鏡を覗き込んだとたん、見たこともない無数の星が、ものすごく近くに迫ってきた。
その瞬間、本当に、足が浮かんだ気がした。
飛んでる、と思った。
ーーいま、僕は、空を、飛んでる。
あのときの感動を、ずっと忘れていた。
いつの間にか、星なんて子供っぽい、どれも同じだと思うようになっていた。
ずっと星ばかり追っている父さんを馬鹿みたいだと思っていた。
ただ意味もなく星を見続けているわけじゃないってことくらい、わかっていた。
父さんはこの巨大な望遠鏡で星を見ながら、同じように僕らを見守っているんだと、ずっと前から知っていたはずなのに。