家に帰ると、父さんの車があった。

 玄関が開いて父さんが何か荷物を抱えて出てくる。
「おお、恒。いま暇か」
「え? まあ……」
「暇なら付き合いなさい」
「は?」
 強制的に車に押し込まれた。

「付き合うって、どこ行くの」
「天文台だ」
 父さんはそう言って車を発進させた。

 今日は天文台の一般公開の日で、子供向けのイベントをやるらしい。
 人手が足りないので僕が助っ人として駆り出されたというわけだった。

 小学校の頃に何度かそういうイベントに参加したことはあるけれど、中学になるとそういうイベントも少なくなって、すっかり天文台から足が遠のいていた。

 昔覚えた星のことはほとんど忘れてしまったし、小さい子供もどちらかというと苦手だった。

 何をすればいいのか尋ねると、ただ立っているだけでいいという。
 それ、いる意味あるのか……?

 でこぼこした山道を登り、天文台観測所にたどり着いた。
 銀色のドームは青空の下でキラキラと輝いていた。

 中に入ると、職員さんが準備をしていた。
 資料をまとめたり、映像の準備をしたりと、忙しそうだ。

 何をしていいかわからず壁際に立っていると
「恒くん?」
 と、職員さんに声をかけられた。
 30代くらいの、若々しい男の人だった。

「久しぶりだねえ。ああ、僕のことは覚えてないかな。香々美といいます。手伝いに来てくれて助かるよ。今日はよろしくね」

 と香々美さんは人のよさそうな笑顔で言った。

「大きくなったなあ。まあ、写真はよく所長に見せてもらってるけどね」
「父さんが?」
「所長、いつも自慢してるよ。うちの息子は秀才なんだって」
「はあ……」

 ほかの人から、父の話を聞くのはなんだか照れ臭かった。自分の話が出ているのを聞くのはもっと照れ臭い。

 ニ時頃になると親子連れが入ってきて、僕は案内係をした。
 こんにちは、展示室はあちらです、と決まったセリフを機械のように繰り返した。