ある日、こんな用紙が配られた。

『いじめを受けていませんか? 悩んでいることがあったら、身近な人に相談しましょう』

 先生に相談したくても、その先生から無視されている場合はどうしたらいいですか。

 このクラスの誰か一人でも、大島がしていることをここに書く人がいれば……
 そんな淡い期待は、持つだけ無駄だった。

 この紙は担任の大島が最初に目を通すはずだし、そんな勇気ある生徒がいるなら、僕はきっとはじめから透明人間になっていないだろう。

 それに、そこまで僕は悩んでもいなかった。
 ただ存在を無視されているだけで、何かされたわけではない。
 無視したきゃすればいい。
 何も言うつもりはないし、誰かに相談するつもりもない。
 僕は用紙を丸めてゴミ箱に捨てた。

 
 さり気なく隣を見る。
 高梁さんは今日も透けていた。
 前を向いて真面目に授業を聞くふりをして音楽を聴いている。
 そんな高梁さんを見ていると、僕は少しだけ安心するのだった。
 たとえ僕にしかそう見えていないのだとしても、

 ―ー僕と同じだ。

 そう思えたから。