「ごめんなさい。いまさら謝っても遅いかもしれないけど……それだけはどうしても言いたくて」

 私は頭を下げて言った。

「もういいよ」

 苦笑しながら七菜が言う。

「たぶん知ってると思うけど、私、学校辞めたんだよね」
「……うん」
「夏休みが終わってから、何度も行こうとしたけど、どうしても無理で。家から出ようとすると、すごく寒くなって、一歩も出られなくて」
「……うん」

 どれだけ後悔しても、しきれなかった。

 家が近いんだから、毎朝、迎えに行っていれば、何か変わっていただろうか。
 放課後、一緒に帰って話を聞いていれば。
 一人じゃないよって言っていれば、七菜は学校を辞めなかっただろうか。

 でも、去年の私は、そんなこと、思いつきもしなかった。

 夏休み明け、七菜が学校に来なくなって、明日は来るかもしれない、明日は、その次はと思い続けて、そのうち、待つことすらしなくなっていた。

本当に、最低だった。

「でもね、いい先生に出会ったの。その先生が毎日うちに来て、説得してくれたの。学校行かなくてもいいよ。ほかにもあなたを受け入れてくれる場所はたくさんあるよって、教えてくれた。その先生のおかげで、また外に出てみようって思えたんだ」

「……そっか」

 笹ヶ瀬くんが私を暗闇から連れ出してくれたみたいに、七菜にも手をとってくれる人が、いたんだ。

 よかった。一人じゃなくてよかった。

「それでね、秋からフリースクールに通うことにしたの。緊張したけど、優しい先生ばかりで、いいところだった。ここなら大丈夫かもしれないって、思えた」

 うん、うん、と私はうなずきながら、七菜の話を聞いた。

 七菜は前を向いていた。
 一歩ずつ、踏み出そうとしていた。
 どれだけ勇気がいることだろう。
 すごく、怖いことだと思う。
 でも、そう決めたなら、応援したいと思った。

 ふと思い出して、スカートのポケットからイヤホンを取り出した。

「このイヤホン……中学のとき、七菜が私の誕生日プレゼントでくれたんだよね」

「それ、まだ持ってたんだ。柚葉、音楽好きだから、ちょっと奮発していいのを買ったんだっけ」
 七菜が懐かしそうに言った。

「ずっと大事にしてた。音楽聴いてるときも、聴いてないときも、ずっとつけてたんだ。変かもしれないけど、このイヤホンが、私を守ってくれる気がしてたんだ」