京都に行った次の朝。


 私はその家の前に立って、息を飲んだ。
 喉がカラカラなのは、暑さだけじゃない。

 今日、一世一代くらいの決心をして、ここに来た。
 大げさかもしれないけど、それくらい私にとって、勇気がいることだった。

 ここに来るまで何度もすくんだ足を踏み出して、チャイムを押した。

 ポケットに入れたイヤホンを、スカートの上からギュッと握りしめる。

 玄関の扉が開いて、お母さんが出てきた。

「……柚葉ちゃん」

 お母さんは驚いた顔で私を見た。

「会いに来てくれたのね。ちょっと待ってて。いま呼んでくるから」

 階段を下りる音がする。
 私はじっとりと汗ばんだ手を握りしめた。

 ここまで来たら、もう引き返せない。
 ちゃんと向き合わなきゃ。

 そう決めたから。

「久しぶり……柚葉」

 七菜は言った。
 七菜に会うのは、一年ぶりだった。