人混みに紛れて囃子の音が聞こえてきた。
これが有名なコンチキチンというやつか、と思いながら、意識はずっと手に集中していた。
温かいな、と思う。
このままずっと繋いでいたかった。
夕暮れになっても地面にはまだ昼間の熱が残っていて、蒸発するように湯気が立ち上っているみたいに、あたり一帯が浮かされているようだった。
どん、と後ろから押された拍子に、繋いでいた手が離れた。
残念な気持ちで手を見つめていると
「あっ! 見て」
高梁さんが通りを指差して言った。
囃子の音が大きくなってきて、人々が立ち止まって注目する。
山鉾が近づいてくるのが見えた。
通りを練り歩く山鉾は「動く美術館」と言われているらしい。
実際に見るまでは、どんなものなのかいまいち想像できなかったけれど、目の前にして、息を呑んだ。
想像以上に大きく、派手だった。
昔の人は、この派手さで家柄や財力を競ったという。
縦に連なる提灯に、昔風のからくり人形、中国の獅子が描かれていたりと、いろんな文学が組み合わさって、不思議な世界観を醸し出していた。
山鉾に乗ったガタイのいい男の人たちが汗を浮かべながら、一心不乱に笛を吹いている。
「きれいだね」
高梁さんがつぶやいた。夢の中にいるようにじっと山鉾を見つめていた。
「うん」
僕はうなずいた。
だけど本当は、山鉾よりも、高梁さんの透き通った横顔に見惚れていたのだ。