道路は渋滞でほとんど動いていなかった。
のろのろと進むバスやタクシーの間を日傘をさして歩く。
駅から十分ほど歩いたところにその和菓子屋はあった。
木造の建物に、白い文字で店名が書いてある。
扉を開けて中に入った。店内は人でいっぱいだった。
赤い着物を着た店員さんがカウンターの向こうで忙しそうに動き回っている。
わらび餅やくずもちなどが並ぶショーケースの中に、色鮮やかな琥珀糖を見つけた。
「あった!」
高梁さんが駆け寄る。
「よかったあ……売り切れてたらどうしようかと思った……」
心底ホッとしたような表情に、僕もよかったと安堵の息を吐いた。とりあえずこれで今日の目的は達成できたのだ。
一つずつ小さな袋入りのものを買って、店を出た。
さっそく外に出て食べようと袋を開けようとすると
「それはあとでのお楽しみ」
と高梁さんが言った。
「まずはいろいろ見て回ろうよ」
それから僕らは街を見て回った。
河原町通りにある丸善に入った。
『檸檬』に出てきた本屋にも行った。
スタイリッシュな黒い棚に本がずらりと並んでいる。
さすがに明治時代の頃とは雰囲気が全然違うのだろうけれど、百五十年以上もずっとここにあり続けているのがすごいと思った。
それだけ長い間、この街の人たちに愛され、必要とされてきたのだ。
小腹がすいて喫茶店でサンドイッチを食べた。
店を出て歩いていたとき、高梁さんがふと足を止めた。
催事場で結婚式場のイベントをやっているようだった。様々なデザインのウエディングドレスやタキシードが並び、カップルたちが幸せそうに手を繋いで見ている。
「きれい」
高梁さんが真っ白なドレスをぼうっと眺めながら、ぽつりとつぶやいた。
そして、はっとしたように
「あっ、ごめんね。次どこいこうか」
と笑って言った。
百貨店を出て、裏通りにある寺院に入った。
由緒ある古い寺院で、威圧感のある阿弥陀如来が祀られていた。
江戸時代に活躍した伊藤若冲という日本画家にゆかりがある寺院だと、入口でもらったチラシに書いてあった。
前に地元の美術館で伊藤若冲の絵を見たことがあった。平面なのにどこか立体的な不思議な絵に吸い込まれるように見入ったのを覚えている。
何も知らずに来たのに、何かに引き寄せられたような縁を感じた。
列に並んで御朱印帳を買った。
いい買い物をしたなあと眺めていると
「笹ヶ瀬くんてたまにおじいちゃんみたいだよね」
と高梁さんに笑われた。
「ばあちゃんに育てられたから趣味が渋いんだ」
と僕は少し恥ずかしくなりながら言い訳をした。