京都で一か月かけて行われる祇園祭の中でも有名な宵山の最後の日。
予想はしていたけれど、駅に着いた瞬間、あまりの人の多さに圧倒された。
外国人や涼しげな顔で歩いている着物の人もたくさんいて、うっかり異世界に迷い込んだような心地になった。
駅の外に出ると、真上から直射日光が降り注ぐ。
京都は高い建物がなく歩道に影が少ないとは聞いていたけれど、昼過ぎだからと油断していた。
「ほら、入って」
駅の外に出た高梁さんが、日傘をさして振り向いた。
目が点になる。
「えっ。いやいや、いいよ」
「笹ヶ瀬くん、夏の京都なめてるでしょ。帽子も日傘もなしで歩くのは危険だよ」
たしかに完全になめきっていたけれど。
日傘をさす高梁さんは絵になっていた。
そこに僕が割り込むことなど許されないような完璧さだった。
「もう、何恥ずかしがってんの」
ぐい、と手を引かれて、僕は日傘の下に入った。
この状況は、もしかして、相合い傘というやつだろうか。
相合い傘って雨の日に「よかったら一緒に入る?」ってやつじゃなかったっけ。
日傘でもありなのか? ここは「僕が持つよ」とか言うべきなのか?
でもこれは高梁さんの傘なのだし高梁さんが持っているほうが自然なのでは……?
悶々と考えていると、すたすたと歩き出した高梁さんに置いていかれそうになって慌ててついていく。
なんだか、完全にリードされてしまっている。