翌日から、僕の名前は呼ばれなくなった。
 それだけじゃない。大島は、徹底的に僕をいない者として振る舞った。

 四十人いた生徒は、三十九人になった。
 その徹底ぶりにはじめは動揺していたクラスメイトたちも、次第にそうすることが正しいみたいに、僕の存在を無視するようになった。

 新田はあからさまに僕と目を合わせなくなった。
 いつの間にかアイドル好きの集団に混じっていて、聞いたこともないアイドルグループの話で盛り上がっていた。
 朝、おはようと声をかけると、新田は病原菌か何かが近づいてきたみたいに、一目散に逃げていった。

 友情って、こんなにあっけないものなのか。
 僕はがっかりしたけど、仕方ないのかもしれない、とも思っていた。

 僕の通う星稜高校は県内一を誇る進学校で、この学校では、教師の言うことは絶対だった。
 教師に歯向かってはいけないなんて、どこにも書いていないのに、暗黙のルールみたいなものがあった。

 大島は学年主任で、生活指導もしていた。背が高くてガタイがよく、声も大きい。物理教師より、体育教師のろうが似合っている。
 それにくらべて、僕はなんの力もないただの生徒でしかない。


 成績がいいわけでも、信頼されているわけでもない、いてもいなくてもどちらでもいい存在だったのだ。
 いてもいなくてもいいから、簡単に消された。
 いなくても困らないから、誰も文句を言わない。
 たぶん、そういうことなのだろう。

 こんなことになるなら、間違いなんて放っておけばよかった。
 みんながそうしていたように、黙っていればよかった。
 でも、後悔しても、もう遅かった。
 教室の空気は、あの日から変わった。
 僕をいないものとすることに、決まってしまったのだから。


 放課後の練習には参加しなくなった。
 球技大会当日は仮病を使って休んだ。どうせ参加したところでパスなんて回ってこないだろうし。