夕方まで部屋で漫画を読んだり宿題をやったりして、居間に行くと、父さんはもう仕事に行っていなかった。
テーブルの上に、一万円札がぽんと置いてあった。
僕は釘付けになった。
一万円なんてバイトをしていない高校生にとっては大金だ。
そしていま、喉から手が出るほどほしいものだった。
喉から手をだす代わりに、手を伸ばしかけた。
いやいや、父さんかばあちゃんのお金だろうし、そんな盗っ人みたいなことさすがに……
でもほしい……ものすごくほしい……。
念力で穴を開けれそうなくらい見つめていると、後ろからばあちゃんがのっそりと近づいてきた。
「それ、お父さんが恒に渡しといてって置いてったよ」
「父さんが?」
驚いて振り返ると、ばあちゃんが物知り顔でうなずいている。
「あんたがお小遣いねだるなんて珍しいからねえ。なんかほしいもんでもあったんだろ」
ばあちゃん。父さんに言ってくれたのか。
そして、直接渡さないところが、なんとも父さんらしい。
夜、父さんにショートメールを送った。
『お金ありがとう』
返事はなかった。
夜空に星がちらちらと光っている。
夢中で観測してるんだろうな、と晴れた夜空を窓から見上げて思った。
僕は両手を広げてばたっとベッドに寝転んだ。
これで、京都に行ける。
初めて、晴れてほしいと思った。
七月二十四日。お祭りの日。
柄にもなくてるてる坊主とか作ってしまうくらいに、僕は浮かれていた。