とにかく、無事に退院できたと聞いてほっとしていたとき、高梁さんからメッセージが届いた。
『京都行こう』
……え?
ほんとに行くつもりだったのか。
まさか、まだあの鉄道会社のキャッチコピーみたいなノリの約束、本気だったとは。
でも、高梁さんの頑固さは、この一ヶ月でなんとなくわかってきていた。
ん? しかもこの時期ってもしかして……
『二十四日はどう?』
やっぱり。お祭り行く気満々だった。
調べると、二十四日は山鉾が京都の街を練り歩く、宵山という一大イベントがある日らしい。
そんな絶対に混みそうな場所に行って大丈夫なんだろうか。
貧血と人混みは関係ないかもしれないけど。
でも退院したばっかだし……。
でも、返事は、決まっていた。
僕の中には、最初から断るという選択肢はなかった。
遠いといっても、新幹線を使えば、京都まで一時間で行ける。
問題はお金だ。僕の全財産は一万円。ばあちゃんにもらった千円を足しても1万千円。新幹線のチケットは往復で一万五千円だった。
どう考えても足りない。
普通列車を乗り継いで行けばかなり安くなるけれど、そうすると四時間くらいかかってしまう。
往復八時間。日帰りでは厳しい。
はっとした。
もしかして、高梁さん、泊まりのつもりなんじゃ……?
いやいやいやダメだろ。高校生だし。ただのクラスメイトだし。2人きりで泊まりなんて……うん、やっぱりだめだ。
浮ついた考えを即座に頭の中から排除して、現実的なことを考える。
高校生ができる日雇いバイトなんて限られているし、すぐに見つけるのは難しそうだし。
そもそもバイトなんてしたこともないから探し方もわからない。
「せめてあと一万円でもあれば……」
絶望的だった。こんなことならちゃんと貯金しておくんだった。
お年玉を何も考えずに漫画に全部注ぎ込んだ半年前の自分を殴りたかった。