京都に行くなんて、無理だと思っていた。
終業式の日の帰り道。
大丈夫と言って笑顔で手を振っていた高梁さんから、しばらくして電話があった。
『ーーたすけて』
電話のむこうから、ほとんど切れてしまいそうな高梁さんの声が聞こえた瞬間、僕は駆け出していた。
高梁さんは、電信柱にもたれて、荒く息を吐いていた。
いつも透けている高梁さんが、いつもよりもっと透けて、後ろの景色まで見えてしまっていた。
そのまま消えてしまいそうだった。
すぐに救急車を呼んで、高梁さんの透き通った背中を必死にさすりながら、猛烈に後悔した。
やっぱりあのとき、無理にでも家に帰っていればよかった。
僕が、無理をさせたんだ。
大丈夫と言った高梁さんは、全然大丈夫そうじゃなかったのに。
安心させるために、わざと平気なふりをしていたんだ。
それなのに、高梁さんの言葉を鵜呑みにして、本人がそう言うなら大丈夫なんだろう、と安易に思ってしまった。
それから三日間、高梁さんは入院した。
高梁さんのお母さんは、普段から貧血気味でこういうことはたまにあるから気にしないで、と言っていたけれど、貧血だけで三日も入院するものなんだろうか。
貧血なんて言葉とは無縁の僕にはよくわからなかった。