朝起きて居間に行くと、父さんが朝食を食べているところだった。

「おお、恒。おはよう」

 父さんがひげが伸びた顔で言う。

「帰ってたんだ」

 山の上にある天文台の所長をしている父さんは、普段ほとんど家にいない。

 たまにふらりと帰ってきても僕が学校に行っている間に帰ってきて、昼間寝て夜にはまた出かけてしまうので、ほとんど顔を合わせることがないのだ。

 小さい頃からそれが当たり前だったから、たまに夏休みなんかで朝から普通に顔をあわせると、ちょっとびっくりしてしまう。

 テーブルについて、ばあちゃんと三人で朝食を食べた。ご飯にきゅうりの佃煮、なすの南蛮漬け、じゃがいもの入った味噌汁と、野菜づくしだ。

「ごちそうさま」
 父さんはそう言って食器を片付け、居間を出ていった。
夕方まで寝て、また仕事に行くのだろう。

「ばあちゃん。頼みがあるんだけど……」
 僕はおずおずと申し出た。
 テレビの占いを見ていたばあちゃんが振り向く。
「なんだい急にかしこまって」
「お小遣いください」
 がばっと頭を下げた。

「しょうがないねえ。ほら」
 ばあちゃんが財布を取り出してお札を取り出す。千円だった。

「ありがとう」
 受け取って、がくりと肩を落とす。

 千円か……まあ、もらえただけでもありがたいんだけど……。
千円では、どう頑張っても京都には行けないだろうな。