笹ヶ瀬くんが帰ってから、お母さんに聞いた。
「お母さん、笹ヶ瀬くんに、病気のこと……」
「言ってないわよ」
お母さんはわかってる、というように答える。
「貧血気味なのって説明しておいた」
さすが看護師歴二十年。口が固い。
「ありがとう。いつか、ちゃんと自分の口で言うから」
お母さんは私のそばに座って、そうね、と微笑んで言った。
「でも、ちょっと安心した。柚葉のそばにあんないい子がいてくれて」
うん、と私はうなずいた。
一か月前、自分のそばに、家族以外の誰かがいるなんて、想像もしなかった。
でも、いまは違う。
倒れて朦朧としながら、無意識に呼んだのは、お父さんでもお母さんでもお兄ちゃんでもなく、笹ヶ瀬くんだった。
私にとって、笹ヶ瀬くんはどういう存在なんだろう。
最初はただの、隣の席の男の子だった。
いまは、それだけじゃないのは、わかっていた。
“友達”
そういう存在をつくることすら、諦めていた。
もうすぐいなくなるから。
つくっても意味がないから。
でも、諦めなくてもいいのかな。
もう少しだけ、一緒にいたいって、思ってもいいのかな……
友達として。
「ねえ、お母さん」
「ん?」
もうすぐ終わりが来る。
限界がすぐそこまで来てるのがわかる。
だから、その前に、一つだけーー。
「一つだけお願いがあるんだけど、聞いてくれる?」