「高梁さん、もしよかったらだけど……家まで送っていこうか?」

 帰り道、笹ヶ瀬くんがそう言った。

「いいよ。方向違うし」
「だって、さっきほんとに辛そうだったから……」
「へーきへーき。卵かけご飯でバッチリ回復したし」
「そ、そう……それならよかったけど」
「じゃあね。いい夏休みをー」
 そう言って、手を振って別れた。

 笹ヶ瀬くんが見えなくなった瞬間、込めていた力が抜けて体がふらついた。
 いくら口で平気と言ったって、そんなわけないのは自分がいちばんよく知っている。

 あれほど走ったらダメだと言われていたのに二回も全力で走ってしまったのだから、無理が来るのは当然だった。

 ときどき、錯覚しそうになる。
 私もみんなと同じように、たくさん歩いたり走ったりできるんじゃないかって。

 普通じゃないことを思い出すために病院に通っているのに、それでも、思いたくなる。

 普通に、みんなと同じように、走ったりたくさん歩いたりできたらって。

 それは錯覚というより、願望かもしれない。

 夢を見ると現実との差に落胆するのに、願わずにはいられない。

 ーーでも、さすがに今日は、無理しすぎちゃったなあ……。

 塀に手をついて、そのままずるずると地面に座り込んだ。
 そしたら、もう立ち上がれなくなった。