『ごほん……失礼しました。えーと、学校に残っているみなさん。そして先生方も、いまから大事なことを言うので、よく聞いてください。私は二年一組の高梁柚葉といいます。私たちの担任の大島という教師は、一人の生徒を徹底的に無視し、さらにその行為を生徒にまで強要させる陰険教師です。その陰険さを表す音声があります。いまから流すのでよく聞いてください』


 新田が録音した音声が流れ始めて、僕と新田は顔を見あわせて目を瞬かせた。
 そして、笑った。
 いまごろ大島は自分の声を聞きながら、職員室で顔を真っ赤にして慌てふためいているだろう。
 必死で弁解しているかもしれない。いい気味だった。

 通りかかる生徒が、なにこれー、と笑いながら歩いている。
 僕らは間抜け面でぽかんとしながら聞いていた。

「高梁さん、やっぱりすごいなあ」
 新田がぽつりとつぶやいた。
「うん、すごい」
 僕もうなずいた。

 人のために行動できること。
 人を説得して、変えてしまうこと。
 それはきっと、高梁さんに力があるからじゃなくて、高梁さんの何かしたいという強い思いが変えたのだと思った。

 待ちなさい! と叫ぶ声がして、バタバタと階段を下りる音がした。

 高梁さんが飛び下りるように走ってきて、僕の手を掴んだ。

「逃げよう!」
「う、うん」

 ちょっとドキドキした。

 僕らは校門の外まで全力で走った。

 これからはどうなるかなんてわからない。
 勝手なことをするなと怒られるかもしれないし、何も変わらないかもしれない。
 でも、そんなのは、あとで考えればいいことだと思った。