『今日は目障りなやつがいないから空気がいいな』
ドクンと心臓が跳ねる。
やけに機嫌がよさそうな大島の声だった。
ーー僕が学校を休んだ日だ。
『いい機会だから大事なことを言っておこう。お前たちはまだ学生だからピンとこないかもしれないけど、社会に出たら上の者には絶対に敬わなければならないんだ。そんな簡単なルールすら守れないような奴は必要とされない。ゴミ同然だ。当然罰が下る。どうなるかは、もうわかってるな』
「これ……」
驚いて新田を見る。
新田は泣きそうになっている。
「笹ヶ瀬くんが休んだ日、大島先生、絶対何か言うと思って、録音してたんだ。そしたらやっぱり、言った。去年もそうだったから」
「去年……」
高梁さんがつぶやく。
「それって、七菜のことだよね」
七菜?
知らない名前だった。
うん、と新田が頷く。
「去年、笹ヶ瀬くんみたいに大島先生に無視されて、学校に来なくなった女の子がいたんだ。その子が初めて休んだ日、大島先生、嬉しそうに言ったんだ……今日はいい日だって」
「言ってた。あいつほんとにクズだね」
高梁さんがうんざりしたように言う。
高梁さんと新田は一年のときも同じクラスだったらしい。
そして、一年前にも、僕と同じように大島に孤立させられた生徒がいた。
「その子、だんだん休みがちになって、夏休み明けからは一度も来なかった」
新田は重苦しそうな声で言った。
「もしまた同じことになったら……夏休みが終わって、笹ヶ瀬くんが学校に来なかったらどうしようって、心配になって……」
新田はうつむいていた顔をあげた。
「高梁さん、クラスのみんなに声かけてたんだ。力になってほしいって。笹ヶ瀬くんのために一緒に抗議しようって……みんなに断られてたけど……」
「えっ、そうなの?」
高梁さんはさっと顔を背けた。
透けていても顔が赤くなっているのがわかった。
「みんなに拒否されても声をかけ続けてた高梁さん見てて、このままじゃダメだと思ったんだ」
笹ヶ瀬くん、と新田が僕を見て言った。
「無視してごめん。時間かかったけど、俺も協力するよ」
「新田……」
「大島先生、笹ヶ瀬くんのこと無視してるけど、本当はめちゃくちゃ意識してると思うんだ。逆に俺のことなんてまったく気にしてないだろうから、録音もバレてないと思うよ」
新田は得意げに言った。
「三人いれば、なんとかなるよ。きっと」
高梁さんはにっと笑ってそう言った。