それから何事もなく過ぎていった。

 僕は三日に一度図書室に行って、読んだ本を返してまた新しい本を借りた。

 高梁さんが何をするつもりなのかはわからなかった。
 テストが終わった。成績はいつも通り、オール平均点だった。
 そして、終業式が終わった。

 夏休みまでになんとかするって言ってたけど、どういう意味だったんだろう。
 一度、ラインで聞いてみたら『ヒミツ』と返ってきた。

 いったい何をするつもりなんだろう。
 ……不安だ。

 とにかく、毎日数えていた夏休みまでの日数が、やっとゼロになった。

 明日からは朝から漫画や本を読んで、寝たいだけ寝て、かき氷を食べたりして、怠惰を思いきり貪ってやろう。
 と小学生みたいな夏休みの過ごし方を考えながら学校を出たときだった。

「笹ヶ瀬くん!」

 大声で名前を呼ばれた。

「高梁さん」
 振り返って、ギョッとした。
「……大丈夫?」
 急いで追いかけてきたのだろう。
「だ、だい、だいじょうぶ……」
 高梁さんは塀に手をついて、ぜえぜえと心配になるくらい息を切らしながら言った。

 その後ろに、もう一人いた。
 高梁さんに隠れるようにして立っているけれど、高梁さんは透けているし、そもそも巨大だからまったく隠れられていない。

「新田……?」
「あの……俺、高梁さんに一緒に来てって言われて……」
 たぶん無理やり連れてこられたのだろう。

「見せたいものがあるんでしょ、新田くん」
 ようやく少し落ち着いた高梁さんが、体を起こして言った。
「うん……これ……」
 新田がおずおずと前に出て、携帯を取り出した。
 僕は目を見開いた。
 録音だった。
 新田がぽってりとした指で再生ボタンを押した。