翌日。朝のホームルームで、大島が教壇に手をついて言った。
「昨日ホームルームの最中に携帯を触っている生徒がいた。昨日充分に指導をしたからもうそんなことはないと思うが、もし見つかった場合は即没収する。今後そんなことはないように」
そして、いつも通り出席をとりはじめた。
録音はたった一日でバレてできなくなった。
なけなしの証拠集めすら、できなくなってしまった。
高梁さんはいつものように耳にイヤホンをつけて隣の席に座っていたけれど、明らかに元気がなかった。
それどころか、昨日よりもうっすらと透明度が増しているように見えた。
校門を出たところで声をかけられた。
「笹ヶ瀬くん、一緒に帰ろう」
振り返ってはっとした。
……やっぱり、昨日よりもいちだんと透けている。
どうしてかはわからない。
「録音はだめだったけどさ、ほかの作戦考えようよ」
「もういいよ」
僕は言った。
「もうやめよう。実際何もされてないんだから証拠もないし。僕らが何か言ったところでどうにもならないよ」
「そんなのわからな……」
「わかるよ。こんなことしても意味ないって」
高梁さんが目を見開いた。
ーー意味のないこと。
自分が言われて傷ついたことを、人に言っている。
最低だ。これじゃ大島と一緒じゃないか。
わかっていても、止められなかった。
「僕が黙ってればいい話なんだから。もう放っといてよ」
「そんなのおかしいよ。なんで笹ヶ瀬くんが我慢しなきゃいけないの? 何も悪いことしてないのに」
「僕は大丈夫だから。べつに困ってもいないし、元に戻っただけだよ。いろいろ考えてくれてありがとう」
“ありがとう”
こんな風にお礼を言うつもりじゃなかった。
一緒に戦おうって言ってくれて、嬉しかった。
本当はもっと素直な気持ちでありがとうって言いたかった。
でも、言ってしまった。
自分から突き放してしまった。
誰も巻き込みたくなかった。
どうしてかわからないけど、昨日よりも透けている高梁さんを、見たくないと思ったんだ。
「……そっか」
と高梁さんは目を伏せて言った。
「ごめんね。勝手なこと言って」