その日の放課後。
教室を出て、廊下を歩いていたときだった。
「待ちなさい」
と、後ろから声をかけられた。
振り向くと、大島が立っていた。
ドクン、と心臓が嫌な音を立てた。
「生徒指導室に来なさい」
と大島は言った。
「……はい」
僕はうなずいて、大島のあとをついていった。
教室の真ん中、絶海に浮かぶ無人島みたいにぽつんと、机が二つ向かい合わせに置いてある。
ほかの教室の物音はいっさい届かない静けさだ。
何を言われるのだろう。嫌な予感しかしない。
「今朝、ホームルームの時間に携帯を触っていただろう。何をしていたんだ」
ドキリとした。
大島が教室に入ってくる前に録音を開始し、出て行ってから停止した。充分注意していたはずだった。
見られていた?
いや、違うーー誰かが告げ口したんだ。
「べつに何もしてません」
僕は平静を装って言った。
大島が不快そうに顔をしかめる。
「嘘をつくな。何か撮ってたんだろう。それとも録音か? 鐘が鳴ってから携帯を触るのは禁止されているのは知ってるよな」
「知ってます」
「教師として生徒の盗撮や盗聴行為を見過ごすわけにはいかない。どうせくだらないことを企んでいたんだろうが、そんなものには何の意味もない。今日のところは見逃してやるが、今後おかしな真似はしないことだな」
大島は口元に余裕のある笑みを浮かべて言った。
たしかに意味なんてなかったかもしれない。録音なんてしたって、なんとでも言い逃れできることくらいわかっていた。
でも、高梁さんが一緒に戦おうと言ってくれたことが嬉しかった。
その気持ちまで簡単に握り潰されたみたいだった。
教師として?
いまさらまともな教師みたいな顔をするな。
大事なのは自分とそのくだらないプライドだけじゃないか。
むかつかないの、と高梁さんが言ったのを思い出す。
いま、初めて、心底腹が立った。
どうしてこんなくだらない大人の言いなりになっているんだろう。
ルールなんて誰が決めたんだ。
教師か?
校長か?
逆らった生徒は無視していいなんてどこに書いてあった?