隣の席の子が透けている。
完全な透明じゃない。半透明だ。
どうしてそんな風に見えるのか、さっぱりわからない。
この不可思議な現象に比べれば、僕が透明人間扱いされていることなんて、どうだってよかった。
僕が無視されるようになった原因はわかっている。
でも、高梁さんが透けている理由はわからない。
その理由を探すために、僕は高梁さんを毎日観察することにした。
観察といっても、じっと見たりはしない。そんなことしたら透明人間に変態がプラスされてしまう。変態な透明人間なんて最悪だ。
授業を聞いているふりをして、横目でさり気なく見るくらいだ。
高梁さんは、今日も何か聴いていた。
何聴いてるんだろう。あ、ちょっと指動いてる。
二ヶ月観察してわかったのは、どうやら僕以外の誰も、高梁さんが透けているようには見えていないらしいということくらいだった。
クラスメイトはみんな普通に高梁さんに話しかけている。
高梁さんは自分から誰かに話しかけることはめったにないけれど、話しかけられると顔をあげてちゃんと受け答えをする。
高梁さんのことを変な風に見ている生徒は誰一人いない。
普通の、クラスメイトの一人として接していた。
高梁さんの姿が透けて見えるのは、なぜか僕だけだった。
僕の目がおかしいのだろうか。
それともみんな気づいてないだけで、じつは高梁さんは幽霊なのだろうか。
足がないとか、写真に映らないとか……でも足は二本ともあるし、集合写真にもしっかり写っていた。
毎日見ているうちに、疑問に思うようになった。
高梁さんは、本当にここにいるんだろうか。
―ー触れるんだろうか。
触れられるかもしれないし、ひょっとすると、すり抜けるかもしれない。
もしすり抜けたら、と思うと、少し怖くなった。
触れられないということは、高梁さんは、人間じゃないということになってしまう。
試してみようか。
どうせいない人扱いだ。どう思われたって……
手を伸ばしかけて、寸前のところで引っ込めた。
確認する勇気は、これっぽっちも持ち合わせていなかった。
隣の席で、こんな風に毎日僕が悶々と考えているなんて、高梁さんは思わないだろう。
それどころか、隣にいると認識されているかどうかもあやしい。
でも……高梁さんが幽霊じゃないのは、確かめなくてもわかった。
僕と違って、ちゃんと名前を呼ばれるから。話しかけられるから。
高梁さんはちゃんと、ここにいる。
僕よりずっと確かな存在感がある。
だから、余計にわからないのだ。
どうして僕だけ高梁さんが透明に見えるのか。
それは僕がこの教室で透明人間扱いされていることと、何か関係があるのだろうか。