七菜とは家が近くて、中学から一緒だった。
 運動部にも吹奏楽部にも入れなかった私は、消去法で人気のなさそうな手芸部に入った。
 手芸部の部員は五人だけで、しっかり者で面倒見のいい七菜は部長だった。
 不器用な私に、一から丁寧に糸の使い方を教えてくれた。

 高校でも一緒に手芸部に入った。
 私は相変わらず不器用で、裁縫というより小さい子供が針で遊んでるレベルだった。
 おまけに人見知りで新しい友達もできなかったけど、七菜と一緒に何かをするのは楽しかった。

 そんなとき、大島が七菜を無視するようになった。
 流行り病みたいに、その空気はあっという間に教室を支配した。
 気づけば私まで、飲み込まれてしまっていた。

 七菜がクラス全員から無視されるようになったとき、私は、見ないふりをした。
 夏休みが終わったら、前みたいに話しかけよう、そう思っていた。

 でも、夏休みが終わってから、七菜は学校に来なくなった。

 秋になっても、冬になっても。

 七菜のいなくなった手芸部には自然と顔を出さなくなった。
 あんなに教えてもらったのに、私一人では何一つまともに作ることができなかった。

 そして二年生になったとき、全校生徒の名前から、七菜の名前が消えていた。
 七菜は、もうこの学校にはいなくなっていた。

 どうしてあのとき、手を差し伸べてあげなかったんだろう。
 一人じゃないよって言わなかったんだろう。
 クラスなんて、どうだっていいのに。
 自分が無視されたってよかったのに。
 どうせあと一年しかないんだから。

 それなのに、私はまた同じ過ちを繰り返そうとしていた。
 クラス中から無視されている笹ヶ瀬くんを、見てみないふりをした。
 七菜が学校を辞めたとき、あんなに後悔したのに。
 私には関係ないって、思ってしまった。
 でも、他人に興味を持てなくなっていた私を変えたのも、笹ヶ瀬くんだったのだ。