笹ヶ瀬くんが学校を休んだ。

 予鈴が鳴っても空いている隣の席を見て不安になる気持ちを追い払う。
 大丈夫。昨日、一緒に戦おうって約束したんだから。
でも……。

嫌な胸騒ぎがした。
もし笹ヶ瀬くんがこのまま来なくなったら……。

「高梁さんおはよー」

 声をかけられて、音楽を止めた。
 顔をあげて、あ、と思う。昨日見かけた子たちだった。
 言おうとしていることは、聞かなくてもわかった。

「ね、昨日さあ……学校の帰りに見ちゃったんだけど」

 やっぱり。
 あのとき一瞬、目が合った。
 こっちを見て何か言っているのもわかった。

「何してたの?」
「べつに何も。ただ散歩してただけだよ」
「……へえ」

 二人が変人を見る目で私を見る。
 ただ学校帰りにクラスメイトと歩いてただけで、どうしてそんな目で見られなきゃいけないんだろう。
 この状況がおかしいとは思わないんだろうか。

「べつにいいけどさ。あんまり関わらないほうがいいよ。高梁さんも目つけられるよ……吉井さんみたいに」

 久しぶりに耳にしたその名前に、胸がズキンと痛んだ。
 一年のときクラスが違っても、知っている生徒はいる。
 去年、学校に来なくなったーー吉井七菜のことを。
 理不尽だと思う。
 でも、ここで私が怒ったところで意味がないのもわかってる。
 この子たちが私を心配して言ってくれているのだということも。
 だから私は、喉まで込み上げた言葉を飲み込んで
「気をつけるよ」
 とだけ言った。
「……もういいよ。行こ」

 これでいいんだ。
 昨日笹ヶ瀬くんと話し合って、学校では話さないようにしようということになった。
 夏休みまでは、なるべく勘づかれないようにいままで通りに過ごそうと。