人は死ぬことに対して抵抗を覚えるようにできているという。
 それは生きている人間の本能なのだと。
 恐怖を感じるから、踏みとどまる。
 いけないことだと感じるから、思いとどまる。
 脳があるから。考える生き物だから。
 だけど、脳が正常に機能しなくなって、何も考えられなくなったら、案外あっさり、その境目を超えてしまうのだと思った。

 学校近くにある小さな無人駅は、三十分に一回しか電車が停まらなくて、近くにもっと大きな駅ができたから、いまにもなくなりそうなしょぼくれた駅だ。
 私みたいだと思った。
 誰にも必要とされないで、ただなくなるのを待っているだけ。

 あと一年、いつ来るかもわからない終わりに怯え続けるくらいなら、ここで散ったほうがずっとましだ。
 自分も守れない、誰も守れない私が、この世界に留まり続ける意味なんて、どこにも見つけられなかった。

 踏切の音が大きくなる。教会の鐘みたいに晴れた空に響き渡る。
 心の中で、最後のカウントダウンを数える。
 足を踏み出す。踏切の向こう側へ。

 ドクン。

 心臓が大きく鳴った。人の何倍も速いスピードで動いている私の心臓が、一瞬、動きを止めたような気がした。


 ーー怖い。


 目をつむると踏切の音がもっと近くなって、音楽も心臓も、何も聞こえなくなった。


ーー怖い。怖い。怖い……!


 だけど、足が震えて一歩も動けなかった。
 そのときだった。
 ぐいっ、と勢いよく、手を引っ張られた。
 そして、そのまま地面に転がった。

 目の前にいたのは、笹ヶ瀬くんだった。


 笹ヶ瀬くんは、私に言った。


『僕には、高梁さんが透けてるように見えるんだ』

 信じられなかった。
 でも、私は信じた。

 そして同時に、その言葉の意味も、わかってしまったんだ。