一年に四回も季節が変わるのだから、私の高校生活だって些細なことで変わってもいい。
 高校の制服も馴染んできた秋の頃、私はアルバイトをすることに決めた。アルバイトを始めたら、私の高校生活が変わりそうな気がしたから。

 働く場所はレストラン。可愛い従業員制服を着たり、他従業員の人と仲良くなったり、きらきら輝く瞬間がここから始まる――はずだった。

「困った……」

 スタッフルームに響く店長さんのため息は何度目かわからない。可愛い従業員制服に身を包んだ私は、いすに座ったまま固まっているだけ。
 店長さんは時計とスタッフルームの扉を交互に眺めて、困り顔で言った。

「君の教育係は大学生の子なんだけど……早く来るように言ったんだけどな。あいつ、《《また》》迷っているのか」

 このレストランは駅前のわかりやすい場所にある。ロードサイドにでかでかとした看板があるので間違うことはほぼない。それに教育係になる人ってすでに働いている人だろうから、何度もここに来ていると思うけど。
 それなのに迷うって一体どういうこと。

 店長さんは「困った」とか「いっそのこと別の人に教育係を」なんて呟いているし、どうしたらいいんだろう。

 そして勤務開始時間の五分前になり――

「……はよ、ございます」

 ついに扉が開いた。

 やってきたのは男子大学生。
 シルバーのピアスがいくつも並ぶ耳を強調するよう、ツーブロックにセットした黒髪。服は白のスリムパンツに水色のカーディガン、さらに男子の間で人気のブランドのスニーカー。
 細部までオシャレにこだわる憧れの大学生像が目の前にいた――けど、おかしい。理想通りなのに何かがおかしい。

 変だなと思いながら視線を下げていく。大あくびスタッフルームの入り口でスニーカーを脱いで、そこでちらりと不自然な位置に肌色が見えた。黒い靴下にちらちらと見えた肌色。

「……あ」

 黒い靴下の先に、穴。
 黒地からぽっかりと覗く親指の爪がこんなにも目立っているのに、気づいているのは私だけのようで、店長さんは平然としている。

眞人(まさと)、ギリギリだぞ。また迷っていたのか」

 七条さんは頷いた……んだと思う。首がガクンと落ちて、最初は頷いたんだと思った。でも上に戻ってこない、そのまま寝てしまいそうな顔をしていたので店長に「起きろ」と怒られていた。

 七条さんはふらふらとした足取りで更衣室に入っていった。アコーディオンカーテンで仕切られた向こう、かばんを壁にぶつける音とかベルトが床に落ちる音とか、とにかく騒がしい。

 ここまでの流れで、この七条さんが変な人だということはじゅうぶんにわかった。追い打ちをかけるように店長さんも言う。

「あいつは七条(しちじょう)眞人(まさと)。大学生だ。変わったところがあるけど、よろしく頼む」
「……は、はあ」
「マイペースを極めすぎて宇宙空間にいるような男だけど、悪いヤツじゃないから」

 マイペースって極めたら宇宙に行けるんだっけ? ぼんやり考えていると、アコーディオンカーテンが開いた。
 レストラン指定の制服に着替えた七条さんが戻ってくる――けれど着替えても靴下の穴には気づかなかったようで、親指の爪はばっちり見えていた。

 靴下に穴が空くことはよくある。登校して靴を履き替えようとしたら靴下に穴が空いていた、なんて私も経験ある話で。
 仮に友達の靴下に穴が空いていたら。仲がいい子なら「靴下に穴空いてる」って言えるけど、仲良くなければ言いづらい。そういう時は見ないふりをしている。

 だから見ないふりをしたい。けど。
 七条さんの場合はどうにも目立つ。小さい穴じゃない。親指の爪ぜんぶ見えてる。黒い靴下だから目立ってしまう。逆ブラックホール。

 まだ店長さんも気づいていないようだった。

「お前、この子の教育係だから頼むぞ」
「教育……? 僕が?」
「しっかりしろよ。お前が先輩だからな」

 店長さんが肩を叩いても、七条さんはとぼけた様子だった。
 眠そうな瞳で私を捉えると、ぼそぼそと呟く。

「あんたの名前は?」
小川(おがわ)ななみです。よろしくお願いします」

 緊張混じりに答えながら頭をさげて――靴下の穴と目が合ってしまう。だめだ。視線を下げるとどうしても靴下の穴に吸いこまれる。気になって仕方がない。

「七条でいい……ん?」

 私の不自然な注目に気づいたらしく、七条さんが足元に目をやる。そして。

「ああ、穴が空いてたのか」

 今日の天気でも話すような軽さで、驚きも恥じらいもなく。淡々としていた。

 七条さんは表情を変えずにスタッフルームの机に近寄った。引き出しをあける。
 もしかして穴を縫うのかな、なんて思っていたら手に取ったのは黒の極太サインペン。嫌な予感しかしない。
 そういう話は聞いたことある。どうにかして靴下の穴をごまかそうとして、でもさすがにそれは、格好いい大学生のイメージが崩壊する。他の人の前でそんなことはさすがにしないだろう。

 結局、私の予想は当たった。
 床に座りこんだ七条さんは、慣れた手つきで親指の爪を塗っていく。

 黒い靴下だからって、サインペンの黒とは別物。塗ったところだけ艶々としていて、靴下に穴が空いていることはやっぱりわかってしまう。

 呆気にとられている私に店長さんがフォローを入れた。

「……な? こいつ変わってるだろ。でも仕事はできるから安心して」

 言われなくても見ればわかる。七条さんは変。初対面で靴下の穴を隠そうと親指の爪を黒く塗る人だもの。

 この人が私の先輩なんて、この先どうなるのだろう。安心なんてできない。不安しかない。



 この変な人が教育係になって、本当に大丈夫なのかと疑っていた。教育係どころか、覇気なしやる気なし寄行ありのこの人が働けるのかとさえ。
 そのイメージはすぐに崩れることになる。スタッフルームを出てレストランホールに出た瞬間、七条さんの空気ががらりと変わった。

「さっき教えた下げ膳、できる?」
「は、はいっ」
「じゃあ三番テーブル。食器下げた後にテーブル拭くの忘れないで」

 ホールに出た瞬間、笑顔全開。
 怠そうにぼそぼそと喋っていたのは嘘のようにハキハキとした声に変わる。眠たそうな顔もしていない。

 わたわたしながらも食器を片付けてテーブルを拭く。食器は重ね方にルールがあって、厨房に戻ってくると七条さんが言った。

「よくできてる。これなら下げ膳は大丈夫だ」
「……はい」
「少しずつ接客も慣れていこう。お客様がいらっしゃったら、お冷を用意。今日はそれだけでいいから、まずは僕の動きを見て全体の流れを覚えて」
「わかりました」
「わからないことあったらいつでも聞いて――いらっしゃいませ!」

 あまりにも別人すぎて、これが本当に七条さんなのか確かめたくなる。スタッフルームではこんな爽やかな顔を数秒もしていなかったし、爽やかな挨拶とは真逆の態度だった。
 でも顔も姿も同じ。名札だって七条って書いてある。同一人物。

 どうなっているんだこれは。


 七条さんは仕事もばっちりだった。来店、オーダー、お冷のおかわりといった作業も先回りして準備し、適切なタイミングでお客様の元へ行く。スタッフ同士の連携にも気を配っていて、担当のテーブル以外でも忙しいところがあればすぐ手伝いに向かう。厨房がオーダーを仕上げるタイミングだって、相手が言わずとも気づいて動く。

 スタッフルームでの姿は嘘のように。これこそ仕事のできる頼れる先輩だ。

「ねえ見て。あの人格好いい。七条って言うんだって」
「彼女いるのかなー? こっちのテーブルにきたら聞いてみようよ」

 お冷やのおかわりを注ぎにいくと、担当テーブルのお客様たちが七条さんのことを話していた。てきぱき仕事をこなす営業スマイル全開の七条さんだから格好よく見えてしまうのはわかるけれど。

 ああ、言いたい。
 『あの格好いい七条さんの靴下、とんでもないことになっているんですよ。穴を塗りつぶしているんです』って叫びたい。
 ホールにいる姿からは想像もつかないどえらい靴下。それを履くご本人はキラキラ笑顔で接客にあたっていた。



 初勤務が終わってスタッフルーム。初めてのアルバイトってのは緊張して、めまぐるしい環境に頭がついていかない。今までお客様としてみてきたものが別視点になる。知らなかった裏側は私の想像以上にばたばたと忙しく、綺麗なものだけじゃない世界だった。
 そして、こちらも。

「おつかれさまです。教えていただいてありがとうございました、七条さん」
「……ん。おつかれ」

 ホールにいる時の七条さんはどこへ消えたのか。スタッフルームに入った瞬間、空気が抜けて萎んだ風船のように覇気がなくなった。ピンと伸びていた背も丸くなって寝起きのように怠そうな表情。

 アルバイトってもう少し和気藹々としたものを想像していたけれど、スタッフルームに戻ってきても七条さんと交わす言葉は挨拶と事務会話程度。ロッカーだの名札入れるのはこの場所だの話して、さっさと着替えてしまった。

 爽やかな笑顔は嘘のように眠そうな顔をして、ふらふらしながらスニーカーを取り出す。
 この人、ちゃんと家まで帰れるんだろうか。心配で見守っていると、ぼそぼそと喋りだした。

「あんた、明日も入店?」
「はい。明日もよろしくお願いします」
「ん。じゃ、また」

 スタッフルームを出て行こうとしたけれど――私の視界には大きなカバンが一つ。それは、七条さんのもので。

「カバン忘れていますよ!」
「ん……ああ、ほんとだ……」

 私が教えなかったら、カバンを忘れて帰っていたのかもしれない。出会ったばかりだけど、この人ならやりかねないと思った。

 こうして私のアルバイト初日は、変な七条さんに振り回されて終わった。
 不安だらけのアルバイトだったけれど、働いてみればやっぱり不安だ。

***

 ホールではきびきび動くのに、バイト以外はダメ。そんな七条さんのことも数週間経つ頃にはわかってきた。

 七条さんには、やる気スイッチがある。
 ホールに出て仕事が始まれば、やる気スイッチはオンに切り替わる。きびきび動く綺麗な七条さんになるのだ。
 お客様がいない暇な時は少しだけ雑談もしてくれるので、それが最近の楽しみだった。

「七条さんっておいくつですか?」
「二十歳。見えないって言われるけど」
「でしょうね……」

 祝日にしては珍しいノーゲスト。レストランホールを見渡してもお客様の姿はなくがらんとしている。そういう時にしかできない仕事もあって、靴裏で汚れやすいテーブルやチェアの脚を拭いたり、壁の汚れを落としたり。掃除をしながら七条さんと言葉を交わす。

「七条さんって一人暮らしって聞きましたけど……こう言っちゃ失礼ですけど、ちゃんと生活できてます?」
「よく聞かれる。でも、なんとか一人暮らしできてる」
「自炊できてます? ってか昨日なに食べました?」
「それもよく聞かれる。昨日食べたのは……おかゆ」
「おかゆ……? 具合が悪かったんですか?」
「いや。ご飯炊こうとしたら、大量のおかゆができあがってた」
「……水が多すぎたんですね」

 現場を見ていないのに簡単に想像できてしまうから恐ろしい。炊飯器の蓋を開け、おかゆ状態になったお米を見て首傾げていそう。
 七条さんには申し訳ないけれど、おかゆVS七条さんの想像が面白くて笑ってしまった。

「……楽しそうだな」
「あ。笑っちゃってすみません」

 ノーゲストといえ笑っているなんて気が抜けている。なんて怒られるのかと思いきや、あの『表情筋動かすことさえめんどくさい系七条さん』が、私の方を見てくすりと微笑んでいた。

「いや、いい。あんたがこの店に馴染んでくれて、うれしいから」
「はい。七条さんのおかげで少しずつ仕事も覚えてきました」
「あんたは飲みこみが早いから助かる」

 こうやってスイッチが入っていれば、格好いい大学生なのに。スタッフルームに戻ったら微笑むこともなく、だるんとした表情でいるのだろう。
 ノーゲスト状態続いてほしい気持ちはあるけれど、そうなるとお仕事としては成り立たない。

「今はヒマだけど、これから混みそうだな」
「祝日ですもんね」
「がんばろう――頼りにしてる」

 ぽん、と優しく頭に落ちる手のひら。
 変な人だとわかっているのに格好よく見えてしまう。スイッチが入っているからって、こんな風に頭を撫でるのはずるい。



 仕事が終わってスタッフルームに戻ると、七条さんのやる気スイッチは切れる。気は抜けて眠そうな顔をし、口数も減る。言葉を発する力もないらしい。

「予想通り、今日は忙しかったですね」
「ん」

 今日は特に疲れているらしい。あの後は、ノーゲストから一転して満席続きになり、水を飲む間さえないような慌ただしさだった。
 私はまだ日が浅いから自分の担当箇所だけを見ていればいいけれど、七条さんはそういかない。私の指導に担当箇所の確認、さらにホール全体の掌握までこなしていたから、かなり疲れているだろう。

 そういえばバイト中にわからないことがあった。サイドメニューだけど今日中に確認して覚えておきたい。

「あの、七条さん」

 声をかけて、七条さんがいる方向を見た――けれど。

「――っ、な、なにしてるんですか!?」

 振り返れば、七条さんは着替えようとシャツを脱いでいた。上半身裸の状態だ。

「……着替え」
「更衣室で着替えてください!」

 ここで着替えられたら困るので、眠そうな七条さんの体をぐいぐいと押して更衣室に連れていく。
 それから落ちていたシャツや制服を拾って更衣室に。あと自分の名札ケースを間違えることも多々あるので、七条さんのケースを引き出しておいた。
 あとは大丈夫だと思う。私は頷いて狭い更衣室から出ようとした。

「はい。オッケーです。じゃ着替えてくださいね――」

 けれど。私が出て行くより早く、軽快な音を立ててアコーディオンカーテンが動いた。一気に暗くなって、狭い更衣室がより狭く感じた。

「え? 七条さん?」

 どうしてカーテンを閉めたのだろう。後ろにいるだろう七条さんを見上げようとして、気づく。

 そういえばこの人、背が高い。
 更衣室に連れていくためといえ、その体に触れてしまっていた。温かかった、と思う。

 それが急に恥ずかしくなって、七条さんの方を向くことさえためらった。
 狭い密室で、二人。よく考えれば普通じゃない。

「……あ」

 そこで七条さんの声が落ちた。そして。

「ごめん。いるの忘れて、カーテン閉めてた」

 一瞬あれやこれや考えてしまった自分が恥ずかしくなるほど、潔くカーテンが開かれる。
 スタッフルームの光が眩しい。うん。

「人のこと忘れないでくださいね……」

 呆れながらそう言って、更衣室を出る。バイトよりも疲れた気がした。


 少し待っていると更衣室のカーテンが開いた。着替え終わった七条さんが眠そうにもそもそと歩いてくる。
 私の最近の仕事は、七条さんの忘れ物チェックだ。まずは使い終わった更衣室を確認。案の定名札が床に落ちている。いつものことなので特に驚きもしない。

「七条さん、名札落としてます」
「ん……ほんとだ」

 次はかばん。これもギリギリまで気が抜けない。
 あと靴下が片方だけ裏返っていることもあるから確認して、忘れ物率ナンバーワンのスマートフォンもチェック。大丈夫、ポケットに入ってる。
 それらの確認を終えると私は頷いた。

「……はい、ばっちりです! お疲れさまでした。ちゃんと前を見て歩いてくださいね」
「がんばる」

 頑張らなくても前を見て歩けるようになってくれ。そんなツッコミは飲みこんで、七条さんを見送る。
 帰り道迷子になった、なんて話を聞くのは一度や二度じゃない。今日も無事に帰れるよう祈っておく。

「さて。私も着替えて帰らないと……」

 そしていざ自分の着替えと更衣室に入ると、七条さんの名札ケースが引き出したままになっていた。そして。

「……この存在を忘れてた」

 本来は名札を置く場所に、なぜか定期が置いてある。
 嫌な予感しかしない。落胆しつつ手に取れば、案の定『七条 眞人』と刻印が入っていた。

 きっと名札をしまおうとして、定期を入れてしまったのだろう。そんなばかな。さすが予想の斜め上を行く男、七条さん。

 でも定期がなかったら、帰り道はどうするのだろう。
 七条さんが通う大学はこの近くで、家は少し離れたところにあると言っていた。私も電車に乗って帰るから、同じ駅に向かうついでだ。

 慌てて着替えてスタッフルームを出る。

 駅に着くと、ふらふらと歩く不審な大学生がいた。

「七条さん!」

 あのふらつき方は七条さんしかいないと声をかければ、やっぱり七条さんだった。私が追いかけてきた理由がわからないらしく、不思議そうに首を傾げている。

「定期、忘れていましたよ」

 定期を受け取った後、七条さんはじっと私の顔を見つめていた。

「助かる。ありがとう」
「私も電車で帰るので、そのついでです。気にしないでください」
「どっち方面?」
「同じ方向ですよ」

 定期券に書いてあったのは、私が降りる四つ手前の駅名。四つ離れていると、近いのか遠いのか判断が難しい。

「……じゃあ、頼む」

 改札を通りながら、七条さんが言う。しかし主語がないので何を頼まれているのかわからず、返答に困っていると手が差し出された。

「一緒に帰ろう。よく乗り過ごすから、案内して」

 乗り過ごす姿が容易に想像できる。眠っているわけじゃないのにぼーっとして降車駅間違えそうだ。
 呆れてしまうけれど、でも放っておけない。

「わかりました。一緒に帰りましょう」

 手を繋ぐというより、誘導に近い。知らない人が見たら誤解しそうだけど、これは案内しているだけ。
 七条さんは子供みたいなことを言うくせに、私よりも手のひらが大きかった。



「あんた、高校生だっけ?」

 電車が動きだしてしばらく経った頃、七条さんが言った。

「数名高校です。もうすぐ学校祭があるんですよ」
「……数名高校の学校祭」

 文化祭と聞いて、七条さんの瞳がきらきらと輝く。スイッチが切れているのに、こんな七条さんを見るのは初めてだった。

「もしかして興味あります?」
「確か、吹奏楽部が有名……って聞いた」
「吹奏楽が好きなんですか?」
「楽器は弾けないけど……一回聴いてみたい」

 ぽつぽつと呟いているけれど、いつもより楽しそうに話している。七条さんは吹奏楽が好きみたいだ。意外な趣味を知ることができて嬉しい。

「意外な趣味ですね」
「大学の管弦楽部定期演奏会も聴くの好き。あと新年のクラシックコンサートも」

 バイト中に雑談していたことはあれど、ここまでプライベートなことを知るのは初めて。好きなものを語る七条さんの横顔が、なんだか可愛く見えてしまった。

「数名高校の吹奏楽はすごいって…………が言ってたから」

 ぽつりとこぼれた一言が、少しだけ引っかかる。
 七条さんの細すぎる声量と電車の音にかき消されてしまって、誰のことを呟いていたのかわからなかった。

 もしかして、彼女とか。
 想像しようとしたけれど、もやもやした感情が頭を占める。深く考えたくない、知りたくないって願ってしまう。不思議な感情だ。

 案内のためと理由をつけて手を繋いで、そのまま電車に乗り込んでしまったから。そのせいで気分がふわふわとしているのかもしれない。

 聞こえなかった名前部分のことを頭から追い出して、いつも通りに振る舞った。

「よかったらきてください。今度チケット持ってきますね」
「ん。ありがとう」
「あ。私のクラス出店に来るのも忘れないでくださいね。サービスしますよ」
「それはやだ……面倒」

 私からチケットをもらうくせに、クラス出店にこないとは何事だ。それも理由が面倒なんて。これは念押ししないと来ないかもしれない。

「来てくださいね?」
「……ちなみに、何やるの?」
「私のクラスはクラス出店と学年演劇に分かれるんです。私はクラス出店のコスプレ喫茶担当です」
「ふうん……演劇、気になる」

 一年生の学年演劇はシンデレラらしいけど。噂によると、不安要素が多いらしい。

「数名高校の学園演劇は伝統らしいですけど……ちょっと今年はどうなるやら」
「なんで?」
「主役を演じる子が、物静かな子なんです。クラスメイトなんだけどみんなと喋ったりしないで一人静かに本を読んでるタイプで」
「……よく主役やるって言い出したね」
「最近転校してきた子がその子を振り回しているんじゃないかって心配です。隙を見て声かけようとはしてるけどなかなかうまくいかなくて……いつかその子もクラスに馴染めたらいいのに」

 そこではたと気づいた。学校祭の話をしてるつもりが、いつの間にか私の悩み相談タイムになっている。
 せっかく学年演劇に興味を持っているのに、印象悪くしてしまったらよくない。

「す、すみません。相談してしまって」

 慌てて謝ると、七条さんはじっと私を見つめて――ふっと微笑んだ。

「あんたは、優しいんだな」
「え? そうですか?」
「いいことだと思う。だから僕も、道案内してもらえる」
「それは七条さんが迷子になってふらふらしているからですよ」

 ごまかしているけれど、七条さんに優しいと言われるのは嬉しかった。そしてスイッチオフ状態のふらふらモードで貴重な笑顔を見ることができたのも。

 話したいことはもっとあった。七条さんの色んな話を聞いてみたかった。好きなもの、好きなごはん、気になるものはたくさんあるのにうまく聞けないまま。
 そしていつもより、電車の速度が速く感じる。駅を一つ飛ばしているじゃないかってほど乗車時間を短く感じた。それは私がこの会話を楽しんでいるからだと思う。

「なあ。コスプレ喫茶って、あんたは――」

 七条さんが言いかけたところで、アナウンスが鳴る。まもなく七条さんが降りる予定の駅に着こうとしていた。

「七条さん。次の駅ですよ」
「助かる。あんたのおかげで乗り過ごさなかった」
「七条さんは私より四歳年上なんですから、しっかりしてください」

 繋いでいた手が離れて、七条さんが歩き出す。
 七条さんが振り返るかもしれないと淡い期待をこめて、離れていく姿を見つめてしまう。

「――あ、」

 ドアが閉まる直前。私の願いが通じて、七条さんが振り返った。
 目が合って、動けなくなる。唇の動きがゆっくりに見えてしまうほど私は緊張していた。

「あんたと僕。四駅離れて、四歳違うのか」

 何を言うかと期待してしまったのに。なんだこれは。
 ぽかんとした私と七条さんを切り離すようにドアが閉まった。

 『またね』なんて別れの挨拶ですらない。年齢差も駅の差も確かに四つ離れているけれど、わざわざ言うほどのものではない。一瞬ほど何を言っているのかと頭にクエスチョンマークが浮かんだぐらい。

 でも、七条さんらしいと思った。
 残された言葉は遅効性の毒みたいにじわじわ染みてくる。あと四駅も電車に乗らなきゃいけないのに、笑いを堪えるのが大変だった。

 面白くて目が離せない人だから――どうしてか胸が苦しい。降車駅が同じだったらよかったのに。

***

 一緒に電車で帰った日から、七条さんのことを考えることが多くなった。手のひらをじっと見つめて、案内のためとはいえ手を繋いでいたことを思いだす。私よりも大きくて、温かな手だった。

「こら」

 こつん、と頭を叩かれて振り返ると、七条さんが立っていた。手にしている銀色のトレーには下げてきたらしい食器がある。

「ぼけっとしない。七番テーブルの下げ膳忘れてる」
「す、すみません!」
「……それとも悩みごと?」

 七条さんは、悩みの理由が自分だということも知らず、私に合わせて身を屈めて顔を覗きこむ。

 その距離に反応して、鼓動が速くなる。これだけ近くにいるのだから私の考えていることが伝わってしまうかもしれない。そっぽを向いて「何でもありません」と逃げた。

「しっかりしろよ――ってこれ、あんたが僕に言ってた台詞だ」
「ふふ、そうですね」
「オーダー取りにいってくるから、下げ膳よろしく。悩みごとあるならあとで聞くから」

 指示通り七番テーブルに向かうけれど、やっぱり七条さんが気になってしまう。

 ちらりと見れば、七条さんはオーダーを取りにいった先で若い女性のお客様たちと話していた。

「お兄さん、何歳?」

 レストランで働いていると、お客様から絡まれることはたまにある。私もあるし、七条さんが絡まれているのを見るのも初めてじゃない。
 でも今回は複雑な気持ちになった。相手のお客様は七条さんを見てうっとりしているし、七条さんも笑顔で対応している。接客業として笑顔の対応は当たり前だけど、それが私の胸を苦しめていく。

「二十歳ですね」
「わあ、私たちと同い年!」
「お兄さんは大学生? 恋人いるの?」

 恋人。
 それを聞いてしまった瞬間、体が動けなくなった。

 だって電車に乗っていた時も七条さんは言っていた。

 『数名高校の吹奏楽はすごいって……が言ってたから』

 そのことを考えると怖くなるから忘れようとしていたけれど。やっぱり、彼女がいるのかもしれない。

 変な人だけど七条さんは格好いい。四歳も年上なのだから、恋人がいたっておかしくない。
きっと世話を見てくれる優しい恋人がいる。それは、年齢も距離も近くて、七条さんにお似合いの彼女なのだろう。

 あ。もやもやとする。心がささくれだって、何かに引っかかっているような。

 そして、気づいた。
 この感情の名前は嫉妬だ。私、七条さんの恋人に嫉妬しているのかもしれない。

 放っておけない人だと思っていたけれどそうじゃない。放っておきたくなかった。
 私、七条さんのことが好きだ。

「恋人は……」

 七条さんが言いかける。
 でも、聞きたくない。恋人の話を聞いてしまったら、私は――

 その時、手にしていた食器がずるりと滑った。甲高い音を立てて、私の足元で割れる。

「っ……ぁ、し、失礼しました!」

 付近にお客様がいなかったのはよかったけれど、注意された後でミスをするなんて情けない。

 七条さんのことが頭に浮かんで、泣きそうになる。こんなミスを見られたら、嫌われてしまうかもしれない。

「大丈夫か?」

 飛び散った破片を拾っていると、七条さんが駆けつけてきた。営業スマイルは消えている。私をじっと見つめるその瞳は怒りを秘めているように見えた。

「ちょっと来て」

 七条さんは私の手首を掴み、行き先も言わずに歩き出した。

「あの! どこに行くんですか!? まだ片付けが――」
「片付けは他のやつに頼むからいい、まずはあんたの手当て」

 夢中だったから気づいていなかったけれど、私の手に切り傷ができていた。破片を拾った時に切ってしまったらしく血が滲んでいた。

 七条さんに連れられてスタッフルームに戻る。
 怒られると思ったのに七条さんは何も言わなかった。私を椅子に座らせると、救急箱を取り出して怪我の手当てをする。
 ようやく口を開いたのは手当てが終わってからだった。

「今日のあんたは、らしくない。何かあった?」
「……何でもないです」
「嘘だ。悩みごとのある顔してる」

 七条さんとお客様の会話に動揺しました。なんて本人に言えるわけない。私が俯くと、無言を感じ取ったのか七条さんが続けた。

「あんたの世話をしてきたのは僕。いつも見てるから、あんたのことはわかる」
「仕事後は、私が七条さんのお世話をしていますけど」
「ああ、助けてもらってる。だからあんたを悩ませてるものを、知りたい。僕も助けてあげたいから」

 床に膝をついて、同じ視点の高さから見つめられる。それは逃がさないという七条さんの意思表示のようだった。

 逃げ場はない。正直に打ち明けたら七条さんに嫌われてしまいそうで怖かったけれど、これ以上隠し通せない。
 それに。七条さんのことが好きと気づいてしまった以上、恋人がいるのかどうか知りたくて仕方なかった。恋人がいるとわかれば、この浮ついた気持ちも鎮まってくれるに違いない。

「お客様との会話を聞いてしまいました。七条さんに恋人がいるのかと考えていたら頭が真っ白になって……」
「僕? それが理由?」
「悩みます! だって七条さんに恋人がいたら――」

 七条さんはまっすぐ私を見つめて答えた。

「いない。それがどうしてあんたを悩ませた?」
「それは……」

 いない。恋人はいない。
 それを知って安堵した。けれど恋人がいないとわかれば、気づいてしまった想いが止まらなくなる。

「……七条さんが好きだからです」

 目が離せないのは好きだから。もっと知りたくなるのも好きだから。
 アルバイトだけじゃ足りなくて、同じ駅で降りられる関係になりたい。年齢差は縮まないけど、距離は縮めることができるから。

 言ってしまえば恥ずかしくてたまらない。心臓は口から飛び出しそうなほどに騒いで、告白してしまった私を責めていた。

 これで。七条さんが頷いてくれたら――幸せだったのに。

「あんたが、僕を好き?」

 目の前にいるのは一筋縄でいく相手ではないのだと思い知る。だってあの変人すぎる七条さんだから。
 意を決した告白だったのに、七条さんは不思議そうに首を傾げていた。

「どういう意味の好きなのかわからない」
「恋愛として好き、って話です」
「これが悩みごと? どうして」
「……七条さんが私のことをどう思っているのかで悩んでいました」
「あんたがいると仕事が捗るし、忘れものも減って乗り過ごしもない。感謝してる」

 どう思っているのかという問いかけに対し、出てきたのは恋愛とは少し違うもので。それはお手伝いさんのような、ただ優しい人なだけのような。
 どれだけ待っても、私が望んでいる『好き』という答えは、出てこないのかもしれない。

 つまり私はフラれた。

「……仕事、戻りますね」

 七条さんみたいなタイプには、しっかりした年上のお姉さんの方が似合うのだろう。恋人はいないと聞いて、舞い上がってしまった自分が恥ずかしい。

 私はスタッフルームを出て行った。振り返って七条さんの反応を確かめてしまえば、今にも泣きだしてしまいそうだったから。

 今日のバイトが終わったら、次は学校祭の後。それほど期間が空くのだから、のぼせてしまった私も冷静になれるはず。
 学校祭のチケットは今日渡そうと思っていたので、まだかばんに入ったまま。でも七条さんに渡さないでこのまま無かったことにしようと思った。だってフラれたばかりで、まだうまく七条さんと話せる自信がないから。

***

 学校祭こと数名祭の日。
 バイトの休みを入れて放課後残って準備を続けたコスプレ喫茶。私は最近レストランでアルバイトを始めたからという理由で接客担当だ。
 コスプレ喫茶といっても様々なコスプレがあって、定番のメイドや執事はもちろんのことチャイナドレスなんてのもある。これは体のラインがくっきりでるため不人気だったけれど、あまりものを選んだ結果当たってしまった。深めスリットの入った翡翠色のチャイナドレスはなんとも動きづらい。

 そんな当店はありがたいことに午前中から盛況。私もばたばたと走り回っていた。
 午後は順番に休憩に入るので、店を回す人数も減って大変だ。私もそろそろ休憩が欲しかったけど仕方ない。夕方になれば手も空くだろうし、それまで頑張るしかない。

「ななみちゃん」

 声をかけられて振り返れば、そこにいたのは隣のクラスのお友達こと日都野(ひとの)さんだった。

「きてくれたんだ! 嬉しい!」
「コスプレ喫茶、すっごい人気だね! 廊下まで並んでたよ」
「もう忙しくって。吹奏楽部はこれから?」

 聞くと日都野さんは頷いた。彼女は吹奏楽部に入っているからこれからが出番だ。

牟田(むた)さんが演劇の方に回っちゃったから、その分まで私が頑張らないと!」

 牟田さんというのは私のクラスメイトで吹奏楽部の子。今年は学年演劇の主役が当たってしまったから、吹奏楽部の発表会は辞退したらしい。日都野さんは学年演劇担当だけど裏方だから発表会に出ると言っていた。

「私も聴きに行きたいけど、この分じゃ休憩とれるか怪しいなあ」
「顔色悪いよ、ちゃんと休憩とってね。無理しないこと! じゃあまたね!」

 これから他クラスにも行くらしい日都野さんを見送って、ため息をつく。

 本当は吹奏楽部なんて聞くだけで七条さんを思い出してしまう。チケットを渡していないから来ることはないと思うけど、吹奏楽部の演奏をあれだけ楽しみにしていたのだ。聴けなくて残念がっているかもしれない。

 七条さんのことを考えるたび、泣き出しそうになる。でも忘れないと、これからも同じバイトで顔を合わせるのが辛くなってしまう。

 くらくらと頭が揺れる。喉が渇いて、少しでいいから座って休みたい。

「すみませーん、注文いいっすか?」
「ただいまお伺いしまーす!」
 でも休憩はもう少し後。いまは七条さんのことを考えず、数名祭に集中しないと。
 オーダーを取りに行こうとして振り返る。瞬間、視界が傾いた。

 気持ち悪い。めまいがして、立っていられない。何かに掴まりたいけれど周りにあるのは、飲み物や軽食ののったテーブルや、誰かが座っている椅子ぐらい。
 倒れてしまいそうで、それなら床に座りこんだ方がいいかもしれない。そう判断した時、声がした。

「大丈夫か?」

 その言葉、その声。聞いたことがある。
 でもどうしてここにいるの。確かめるようにおそるおそる顔をあげれば、その人物は相変わらず無表情でじっとこちらを見つめていた。

「七条さん、なんでここに?」

 チケットは渡していないのに。そんな私の疑問を無視して、いつかのように七条さんが私の手を握りしめる。そして。

「こいつ、休憩。借りてくから」

 教室いっぱいに聞こえる声で宣言。クラスメイトはというと呆気にとられていて、異を唱える間はない。
 七条さんはさくさくと歩き出して廊下へ。仕事中じゃないからスイッチはオフになっているはずなのに、ふらつかずまっすぐ歩いて行く。
 私はというと、さっきまでのめまいは突然現れた七条さんへの驚きで忘れていた。

 廊下の突き当たりでようやく歩みは止まって、七条さんが言った。

「……倒れそうになるまで無理するな」
「あ、ありがとうございます……クラスの子、誰も気づいてなかったのに」
「あんたのこと、よく見てるから。体調が悪いってわかった」

 まさか七条さんに助けてもらえるなんて夢みたいだ。フラれたとわかっていてもまだ好きだから、会えて嬉しくなってしまう。

「でもどうして学校に……?」

 ふらふら歩いて学校まで辿り着いてしまったとか不法侵入とか、不穏なものばかり想像してしまう。けれど、七条さんはポケットから数名祭のチケット半券を取り出した。

「従妹にねだった」
「え? 従妹?」
「……あれ。電車の時に言ったと思うけど。従妹がこの学校の二年生」

 あの聞き取れなかったものが従妹とは。吹奏楽部のことを知っていたのも在校生からの情報なら納得できてしまう。

「そうだったんですね……納得しました」
「ん。でも僕は、なんか、納得できてない」

 一体何に納得できていないのか。理解できない私の手をぎゅっと強く握りしめて七条さんは続ける。少し、不機嫌な声音だった。

「……コスプレ喫茶って、そういう格好するの? 先にわかってたら、もっと早く来てた」
「あ、チャイナドレスのことですか? 似合います?」
「似合うとか、そういうのじゃなくて――」

 七条さんは苛立ち混ざりにため息をつくなり、着ていたジャケットを脱いだ。そのジャケットを私の肩にかける。
 ふわりと甘い香りがした。男物の香水にしては少し甘い、でも心地よい香り。

 それから腕を引っ張られて、倒れかかったところを七条さんに抱き留められた。

「ほかのひとに見せないで」

 突然七条さん登場からのこの急展開。助けてくれたとか上着をかけてくれたとか、とどめがこの超至近距離だ。抱きしめられているのだと思う、たぶん。頭は混乱していて今の状況が冷静に判断できない。

「あんたが面倒を見ていいのは僕だけ、だから」

 七条さんは『ちゃんと伝えました』と得意げな顔をしているけれど、肝心の言葉がでていないからわからない。背中に回された腕が熱いから、勘違いしてしまいそうになる。

「七条さんにフラれたと思っていたのに……抱きしめられたら、期待しちゃいます」
「いつ? 覚えがない」
「最後に会った日、ですけど……」

 きょとんとしていた七条さんは、小さな唸り声をあげて考えこむ。そして。

「僕も、あんたのことが好き。言わなかった?」
「は、初めて聞きました……」
「ああ……どういう意味の好きか聞いて、伝え忘れてた、かもしれない」

 それ一番大切な言葉です。肝心なところで忘れものをしてしまう癖はここでも。

「あんたが好き。だから頭を撫でたり、手を繋いだり、アピールしてた。いつからだっけ……はじめて会った時?」
「……私に聞かないでください」
「靴下の穴見つけたり、かばん忘れ物教えてくれたり、しっかりした子だなって思って」
「う、嬉しいですけど、それがはじまりってなんだか複雑な……」

 腕の力が緩まって、改めて向かい合ったところで七条さんが微笑んだ。それはスイッチが入っている時の営業スマイルとは違う、私だけのもの。

「恋人になって。これからは仕事以外でも面倒みて」
「四歳年下の相手に『面倒みて』って、そんな告白ありですか……」
「だめ?」

 伝わりづらいアピールだったり、変な告白だったり。
 でもそれが、七条さんらしい。だから目が離せないんだ。私はやっぱりこの人が好きだ。

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 
 些細な出来事で高校生活は、変わる。
 例えばアルバイトで変な人に出会ったりとか。

 そして私たちは電車に乗るのだろう。降りる駅はたぶん、同じ。