それからも、菅谷くんと電話したり、メッセージを送り合う日々。それでも、学校では話さないと二人で決めた。
 理由は二つ。

・まず、互いに依存しすぎないようにするため
・学校で関わりのなかった私たちは話して、周りに病気がバレないようにするため

 お互い色んな事情を抱えた私たちは、同じ病気で関わりを持ち始めた。例えば私は赤で、菅谷くんが青の円を持っているなら、お互いのテリトリーを表す円が少しだけ重なって、重なった場所が紫に変わる。そして、その紫は頻発性哀愁症候群を表している。そんなイメージだった。
 今日も私は学校で息を潜め、菅谷くんは沢山の人に囲まれている。全く違う私たちが、誰よりも遠い私たちが、本当は誰よりも近いのだ。
 その時、誰かが私の肩をトントンと叩く。

「川崎さん、今日の数学の課題やった?」

 後ろの席の女の子……確か名前は美坂さん。

「やってあるけど……」
「最後から二問目の問題が分からなくて。教えてくれないかな?」

 教えてあげたい。でも……

「ごめん。出来ない」
「川崎さんも分からなかったの?」
「いや、えっと……」
「出来たの!?お願い、教えて!私、今日、出席番号的に先生に当てられるかもしれないの!」

 押し切られるように、私はその問題を教えた。きっと今日当たるかもしれないと言われて、心のどこかにある良心が痛んだのだ。

「川崎さん、ありがとう!はい、これお礼のお菓子!」

 美坂さんがバッグから飴を二個取り出し、私の手に乗せた。

「初めて話せて嬉しかった!」

 そんな優しい言葉から、私は逃げるように美坂さんの言葉を遮った。

「ごめんね、私、ちょっと用事があって……!」

 逃げる様に教室を出て、誰もいない廊下まで足早に歩き続ける。
 優しい人の好意もちゃんと返せない。だって、私と親しくなれば「相手」が不幸になるの。

「私、お礼も言えなかった……」

 この病気になってから、謝ってばかりだ。怖い。寂しい。泣きたいほどに。
 ポロポロと涙を流しながら、私は美坂さんに貰った飴を口に含む。涙が口に入り、飴の甘さすらしょっぱさに変える。菅谷くんに教えて貰った方法のはずなのに、「寂しさ」は紛れない。

「苦しい。苦しいよ……誰か助けて……」

 寂しくて、人に縋りたいから、人に近づけない。病気が発症する前の中学校の友人とも縁を切った。

 きっと私は「寂しがり屋」だから、一人で生きなければいけないの。

「誰にも迷惑かけたくないよ……消えたい……寂しい。誰か助けて」

 誰にも迷惑をかけたくないと言いながら、誰かに助けを求める自分の矛盾さに嫌気がさした。
 誰にも迷惑などかけたくない。でも、寂しい。何故、こんな病気が存在しているの?

 「寂しさ」は人を壊す感情だ。必要なんてない。

 そのはずなのに、その感情はみんなが持っている。どう処理すればいいの?みんなどうこの感情を処理しているの?どうこの病気と戦えばいいの?
 神様、どうか私が壊れる前に正解を教えて下さい。