それから、お母さんに電話をする代わりに、お母さんが作った小さなぬいぐるみを抱きしめるようになった。

「大丈夫。寂しくないよ」

 そう自分で唱えて、私を大切にしてくれる人の言葉を思い出す。


「お母さん、奈々花が大好き」


「川﨑さんの味方は沢山いる。俺もその一人」


 私を大切にしてくれる人の言葉を信じられるから、何度も言ってもらう必要はもうない。


「よし!」

 
 自分でペチンと両頬を叩いて前を向く。



「川崎さん、最近病状はどう?」
「少しだけ落ち着いてきたかも。菅谷くんは?」
「俺も部活始めてから、大分安定してる」

 寂しさの対処法は人それぞれ。みんなどこかに「安心」を探してる。



「ねぇ、菅谷くん。今度、サッカー部の試合を見に行ってもいい?」
「え、来てくれるの!?」
「うん、菅谷くんを応援したい」

 相手を応援する「余裕」を持ちたい。相手を「大切」にしたい。



「川崎さん、今日の夜、電話しない?」
「うん。私も電話したい!」

 「寂しさ」と上手く付き合いたい。



 まだ、私たちは病気だ。完璧に「寂しさ」と上手く付き合えるわけじゃない。
 だから……


「ねぇ、菅谷くん。私も今度部活に入ろうと思うの。手芸部。少しだけ興味があって」
「え、いいね。最高じゃん。でも、何で手芸部?」



「『安心』を自分で作りたいの」



 いつかどこかに安心出来る場所や方法を自分で作るために、今日も前に進むんだ。



fin.