「なにヘラヘラ笑ってるんだよ」

「笑ってないよ」

「笑ってる」

「笑ってない」

「笑ってる」

「正美ちゃんは頑固だなあ」

 溶けだしたバニラシェイクをすすっていると、スマホが震えた。心臓がびくんと跳ね上がり、借り物のように覚束ない指先でスマホをスワイプした。

『おつかれ!キヨちゃんと話すのたのしかった。また今度みんなで飲も。』

 みんな。「みんな」とは、誰と誰と誰。

 思考をめぐらせていると、正美ちゃんは「ヘラヘラが止まった」とやっぱり鼻で笑った。

「キヨの考えてることは昔からぜんぶ顔に出てる」

「そんなことないよ。わたしだって成長してるよ」

「どうだか」

 ふたたび窓の外を眺める正美ちゃんの眼鏡のレンズに、水色や橙のネオンがきらきらと忙しなく映り込んだ。そのひかりにのせて、わたしは先輩の言葉を反芻した。


 ――おまえ、すごい無邪気だな。


 はじめてだった。はじめてナオくんと正美ちゃん以外の男の人に「おまえ」と呼ばれて、少しもいやじゃなかった。