「これやる」

 正美ちゃんはわたしを見ずにシェイクを差し出した。というより、突きつけた。

「なんで? まだ半分以上残ってるよ?」

「飽きた」

 こういう素直じゃないところも昔から変わらない。バニラシェイクにするかストロベリーシェイクにするか、わたしが悩んでいることに気づいてバニラシェイクを頼んだのだろう。正美ちゃんは甘いものが得意じゃない。

 うふふふふ、と口をゆるめていると、正美ちゃんは軽く眉をよせて

「あの男のことだけど」

 と低いトーンで切り出した。

「あの男? ああ、先輩ね」

「あいつ大丈夫なのか?」

「大丈夫って、なにが?」

 正美ちゃんは目だけでちらっとわたしを見て、すぐにまた視線を戻した。

「人としてちゃんとしてるか、ってことだよ」

 ああ。そういうことか、と腑に落ちる。正美ちゃんはナオくんのことを言いたいのだろう。

 ナオくんとわたしは幼い頃から近所に住んでいて、毎日のようにいっしょに遊んだ。親同士の仲もよく、周囲からは「いつになったらつき合うの?」とからかわれた。