ふと、ツンとした匂いが鼻を突いた。丸一日洗っていない身体は自分でもびっくりするくらい発酵が進み、鼻先を掻いた爪と皮膚のあいだには、ぎとぎとのファンデーションがみっしりついた。

 流そう。ぜんぶぜんぶ、洗い流そう。汚いもの、余計なもの、ぜんぶ。

 絡まってぐちゃぐちゃの髪も、すっかり干乾びたマスカラも、ぬるりとべたついた首筋も、不快感で覆われた脇の下も、ぜんぶぜんぶ洗い流そう。そしたら先輩に会いに行こう。

 拒絶されても、話を聞いてもらえなくても、できることをやるしかない。わたしがわたしをこれ以上見損なわないように。わたしはずっと、わたしで生きていくしかないのだから。

 どんなにしょうもなくても。たとえ一生、好きな人の正解になれなくても。

 瞼がじわっと熱を帯びると、チャイムが鳴った。顔を上げ、玄関に視線をやる。

 正美ちゃんにしてはずいぶん早い。それにどうして自分で鍵を開けないのだろう。

 不審に思っていると、二度目のチャイムが鳴った。

 でっちゃんがピルピルピルピルピルと甲高く鳴き、わたしの心臓は不安定に、だけどランニングホイールよりもずっと速く回りだした。






 ――了――