からからからからからからからから――長すぎる午睡からわたしを起こしたのはチャイムでも先輩でもなく、でっちゃんだった。
まん丸いお月様を背後にたずさえ、休むことなくランニングホイールを回す姿は、もはや回しているのか回されているのかもわからない。そもそも、こんなに回してどうするのだろう、とわたしは不思議に思う。
それでも、でっちゃんは懸命に小さな手足を動かす。前へ、前へと、迷うことも躊躇うこともなく。
視線に気づいたのか、でっちゃんはちょろちょろとわたしの方へやってきた。なにも知らない無垢な瞳に、しょうもないわたしが映る。
「ご主人様、もうすぐ帰ってくるよ。うれしい?」
なにを言ってるんだ、と言わんばかりにでっちゃんは短い首を傾げた。留守を預かるかわりにアパートに住ませてもらうという夏休みの計画は、ここで打ち止めだ。でっちゃんはきっとわたしを忘れてしまうし、いつか再会してもわたしを思い出しはしないだろう。
でも、それでもわたしは忘れたくない。たとえそれが一方通行でも、ぜんぶなかったことにする方がよほどわびしい。